ポルシェ356の歴史的モデルを一気試乗! 伝説を築いた名車の実力を現代目線でレポート【Playback GENROQ 2018】

公開日 : 2020/09/18 17:55 最終更新日 : 2020/09/18 17:55


ポルシェ356-001の走行シーン

Porsche 356

ポルシェ356

 

 

ポルシェ356、その歴史と進化を辿る

 

今年に入り世界各地で“ポルシェ”の誕生70周年を祝う様々なイベントが催されている。その中でもユニークでマニアックなプログラムが、世界から少数のジャーナリストをスイスに集めて開催された。356のルーツを探る、ミュージアム主催のワークショップである。モータージャーナリストの藤原よしおが希少な356歴代モデルを試乗した。

 

ポルシェ356-001

鋼管スペースフレーム・シャシーにVWビートルのコンポーネンツを組み合わせたミッドシップ・スポーツ。ベルンGPでお披露目後、1948年9月にドイツ人建築家のペーター・カイザーへ売却。その後所有者が転々とする中で内外装の改造が行われ、1.5リッターエンジン、15インチホイールに変更された。58年にポルシェが買い戻し、数年前にレストア。現在はオリジナルスペックの1131ccフラット4と16インチホイールを装着する。

 

Porsche 356-001

ポルシェ356-001

 

「ポルシェの名を最初に冠したスポーツカー356-001」

 

今から70年前にポルシェの名を最初に冠したスポーツカー356-001がオーストリアのグミュントで生まれたのは有名な話だが、報道陣に初めて公開されたのが1948年7月4日に行われたベルン・グランプリの会場であったり、開発資金を援助したのがスイスの実業家たちで、チューリッヒに最初のディーラーが設立されたりと、スイスがその創世記を支えた地であるという史実は意外と知られていない。

 

今回開催されたワークショップは、そんなスイスを舞台にポルシェ・ミュージアムが所有する356A、356A スピードスター、356B カレラ2 カブリオレ、356B スーパー90の4台でツーリングし、約15年にわたる356の進化を体感するというのがテーマなのだが、その他にもうひとつの“メインディッシュ”が用意されていた。

 

それが普段ミュージアムに展示されている、356-001の同乗体験である。

 

ポルシェ356-001のインテリア

数年前まで2連式のメーターや後付けのスイッチなど、売却後に改造された姿のままになっていたコクピットは、特徴的なメーター、時計もオリジナルの状態にレストアされている。

 

「門外不出の356-001をドライブするチャンスが与えられた」

 

356-001のプレス発表からちょうど70年が過ぎた2018年7月4日、我々は現在サイクリングコースとして使われているベルン・サーキットの跡地を訪れた。

 

そこで我々にもたらされたのは、まったく予期しないサプライズだった。なんと僅かな時間ではあるが、門外不出の356-001をドライブするチャンスが与えられたのだ!

 

でもなぜ同乗の予定が急遽変更になったのか? その理由は乗ってみて、すぐに明らかになった。

 

とにかく熱いのだ。

 

ポルシェ356-001のエンジン

ソレックス製のダウンドラフト型ツインキャブが備わるビートル譲りの1131ccフラット4。ご覧のようにシートの直後にあり、周囲をバルクヘッドに囲まれているためヒートしやすいのが難点。

 

「エンジンが薄いバルクヘッドを隔てたドライバーのすぐ後ろに鎮座」

 

356-001は後の市販型とはまったく異なり、鋼管チューブラーフレームのシャシーにビートルから流用した1131ccの空冷フラット4 OHVを積むミッドシップ・レイアウトを採用している。

 

実はこのエンジンが薄いバルクヘッドを隔てたドライバーのすぐ後ろに鎮座しており、盛大に熱を発しているのだ。しかもエンジンフードを外しているので余計に始末が悪い。なぜ外しているのかと聞くと、前日にアメリカとドイツのジャーナリストを対象に同乗ツーリングを行った際に、ヒート気味になってしまったからだという。そこで改めて見てみると、車体後半の大部分をスペアタイヤの収納とラゲッジスペースが占めており、前後をバルクヘッドで仕切られた狭いスペースにエンジンが押し込まれていた。これでは長時間走行でヒートするのも無理はない。

 

スペースフレームにミッドシップという構造を採用したのは、フェリー・ポルシェ博士が戦後すぐにイタリアのチシタリアから設計、開発を依頼されたGPマシンなどの影響を強く受けた結果だったとミュージアムのマネージャー、アレクサンダー・クラインは語る。ポルシェ自身、戦前にアウトウニオンPヴァーゲンを開発しており、ミッドシップが初めてというわけではなかったはずだが、レーシングカーと市販スポーツカーでは勝手が違ったということだろう。実際、開発陣の指揮を執ったカール・ラーべが残した記録を見ても、走行テストでリヤフレームが変形してしまったなど、開発に苦心した様子が見て取れる。

 

ポルシェ356-001のシート

カバーはされているものの、幅が広く、座面の高さまで強固なスペースフレームが通っているため、オープンでも乗降性は決していいとはいえない。シートは本来ベンチシートだったようだ。

 

「荒れたベルン・サーキットの旧コースでも安心感が高く、乗り心地がとても良かった」

 

でもそれで356-001が失敗だった評するのは早計だ。ツインチューブ式のモノコックのように幅広いサイドシルを持つコクピットに乗り込むと、ドライバーをなるべく中央に座らせるミッドシップを活かした設計となっていることがよく分かる。またドライビングポジションも自然で、ウォーム・ナット式のステアリングも、4速MTやドラムブレーキのタッチもカッチリしており試作車然とした線の細さはない。

 

残念ながらハンドリング云々を語れる速度域でドライブしたわけではないが、35psのフラット4に対するシャシーのバランスは良好。中でも印象的だったのがスペースフレーム・シャシーの剛性の高さで、しっかりと動くビートル譲りのサスペンションも相まって、荒れたベルン・サーキットの旧コースでも安心感が高く、乗り心地がとても良かった。

 

ポルシェ356A 1600 Coupeの走行シーン

1949年から生産が始まった356(Pre-Aとも呼ばれる)のボディやインテリアを改良し、55年に登場した356A。ラーゴグリーンに塗られたこの個体は、シャシーナンバー56717を持つスタンダード版の1956年型356A(なぜかスーパーのバッジが付いていたが)で、リヤにソレックス32PBICキャブを装着した1582ccフラット4 OHV 616/1ユニットを搭載する。Pre-Aと同じ4速の519型ギヤボックスを採用し、最高速度160km/hを謳う。

 

Porsche 356A 1600 Coupe

ポルシェ356A 1600クーペ

 

「RRゆえのアンバランスさを克服しきれていない」

 

そうした特徴は1956年型の356A 1600に乗ってみると、より明らかになる。

 

1950年代のレベルで見れば、強固なフロアパンと60psを発生する実直な1.6リッターフラット4を搭載した356Aは、ライバルに比べても遥かに高い完成度を誇る1台といえる。しかし356-001に乗った後では、フロントが軽すぎるうえにステアリングのフィールも大味で、RRゆえのアンバランスさを克服しきれていないように感じられた。

 

ポルシェ356A 1600 Super Speedsterの走行シーン

北米でディーラーシップを展開したマックス・ホフマンの助言を受け開発された、クラブマン・レースなどに使える安価でスパルタンなロードスター。1954年から59年までに4854台が製造されたが、55psのOHVユニットを積む1500からレース用のホモロゲモデルというべき110psの4カム・ユニットを積む1500GS-GTまで数種類が存在する。取材車はT2ボディをもつ1958年式の1600Sで最高出力75ps、最高速度175km/hを誇る。

 

Porsche 356A 1600 Super Speedster

ポルシェ356A 1600スーパー スピードスター

 

「3000万円以下で売り物を探すことはできないコレクターズアイテム」

 

続いてドライブしたのは1958年型の356A 1600スーパー スピードスター。いまや3000万円以下で売り物を探すことはできないコレクターズアイテムでもある。

 

スピードスターは北米市場からの要望に応えて生まれた、ライトウェイトバージョンだ。ラジオやグローブボックスなど快適装備を外し、低いウインドスクリーンとバケットスタイルのスポーツシートを採用した結果、760kgに軽量化されたシャシーはバランスがよく、軽快な走りをみせる。

 

356A 1600 Super Speedsterのエンジン

圧縮比を8.5:1に高め、ソレックス40PICBを装着した1600スーパーの616/2ユニットは、最高出力75ps/5000rpm、最大トルク11.9kgm/3700rpmを発生。760kgの車体との相性も抜群。

 

「各国のジャーナリストの間でも、スピードスターをベストとする意見が圧倒的」

 

それには58年モデルから採用されたZF製のウォーム・ベグ式ステアリング・ギヤボックスや、75psにチューンされた1.6リッターフラット4の影響も大きいはずだ。またシューの幅が広げられたドラムブレーキはタッチ、制動力ともに向上し、全体として356Aからかなり洗練された印象を受けた。これであれば数々のレースで活躍し、ジェームス・ディーンやスティーブ・マックイーンも愛したという逸話も頷ける。実際、今回試乗した各国のジャーナリストの間でも、スピードスターをベストとする意見が圧倒的に多かった。

 

しかしながら、スピードスターが実用性、快適性を度外視した特別なモデルであるのは間違いない。では、スタンダードな356はどう進化したのか? その答えが1963年式の356B 1600スーパー90だ。

 

ポルシェ356B 1600 Super 90 Coupeの走行シーン

1949年の製造開始以来、毎年様々な改良が加えられてきた356において、初のビッグマイチェンとなったのが1959年登場の356B。ボディは若干大きくシャープになり、各部の品質、装備もモダンとなった。スーパー90はそのハイパワー版で、90psの1582cc 616/7ユニットを搭載している。ブレーキは冷却フィンのついた4輪ドラム式。シャシーナンバー213711を持つ取材車は1963年に製造されたカルマン製T6ボディのクーペである。

 

Porsche 356B 1600 Super 90 Coupe

ポルシェ356B 1600スーパー90 クーペ

 

「RRのネガが薄められたナチュラルで安定したハンドリングに仕上がっていた」

 

356Bは1959年に登場した、いわば356のビッグマイチェン版というべきモデルである。

 

その最大の特徴はシャープになったボディデザインで、メカニズム的に大きな変更は行われていないというが、全長が60mm伸び、車重が85kg増えたことでシャシーバランスが改善され、良い意味でどっしりとした落ち着きが生まれている。

 

特に90psの1.6リッターエンジンを搭載するスーパー90では、1枚の横置きリーフスプリングで左右のリヤサスペンションを結ぶ補強が行われた効果もあり、RRのネガが薄められたナチュラルで安定したハンドリングに仕上がっていた。

 

ポルシェ356B 2000GS Carrera2 Cabrioletの走行シーン

“カレラ”は、FIAのGTカテゴリー用に550スパイダー譲りの4カム(DOHC)フラット4を搭載したホモロゲモデル。カレラ2はその1966㏄バージョンで1962年のフランクフルト・ショーで発表。1963年の第1回日本グランプリに出場したことでも知られている。ガーズレッドに彩られたシャシーナンバー156695は、僅か34台のみが製造されたT6ボディのカレラ2カブリオレである。

 

Porsche 356B 2000GS Carrera2Cabriolet

ポルシェ356B 2000GS カレラ2 カブリオレ

 

「今で言う911 GT3 RSのようなモデル」

 

そしてもう1台、違うベクトルで356の進化を感じられたのが、1962年式の356B 2000GS カレラ2 カブリオレだった。

 

130psを発生する1966ccフラット4に4カム・ユニットを搭載し、前後に804F1から流用した軽量2ポット・ディスクブレーキを採用するカレラ2は、今で言う911 GT3 RSのようなモデルである。しかもロードスターは、34台しか製造されていない超希少車なのだ。

 

ポルシェ356B 2000GS Carrera2 Cabrioletのエンジン

2基のソレックス40 PII-4を備える1966ccの4カム587/1ユニット。140psのレース用ではなく、最高出力130ps/6200rpm、最大トルク16.5kgm/4600rpmを発生するデラックス仕様。

 

「拍子抜けするほど乗りやすい。ポルシェの“強さ”の原点を見た気がした」

 

実はこの個体、ジャーナリスト諸氏には「期待していたほどエキサイティングではなかった」とあまり評判がよくなかった。というのもスピードスターの倍近いパワーを発揮しているのにトルキーで扱いやすいばかりか、シャシーも一切の破綻をみせずに安定しており、拍子抜けするほど乗りやすいからだ。

 

でも個人的にはこのカレラ2にこそ、あらゆる状況で速く、扱いやすく、乗りやすいクルマに仕立てるという、ポルシェの“強さ”の原点を見た気がした。

 

今回の試乗を通じて、どれがベストだったか? を答えるのは難しい。しかしひとつだけ言えるのは、ポルシェが356とともに過ごした15年間は、RRレイアウトのアンバランスさを克服すると共に、現代のポルシェに繋がる基礎を確立した大事な学習期であったということだ。

 

 

REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/Porsche AG

 

 

※GENROQ 2018年 9月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2018年 9月号 電子版

※雑誌版は販売終了