稀代の現代アーティストが夢見たポルシェ911ターボ、2年の歳月をかけてついに完成

公開日 : 2020/09/27 17:55 最終更新日 : 2020/09/27 17:55


アーシャムが手掛けた、ポルシェ911ターボ

Porsche 911 Turbo (930 A) by Daniel Arsham

ポルシェ911ターボ(930 A)by ダニエル・アーシャム

 

 

ダニエル・アーシャムが手掛けた「911 ターボ」

 

気鋭のアーティスト、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)は、子供の頃にスニーカーやカメラ、そしてポルシェに惹かれてきた。そして、彼が特にお気に入りだったのが911ターボ。彼はスケッチブックに幾度となく、伝説の911を描いてきたという。

 

それが彼のクリエイティブな情熱の源泉となり、以来ずっと作品を作り続けているという。そして今回、1986年式ポルシェ911ターボの完全なレストアと再解釈に挑み、アートプロジェクト「930 A」が完成した。

 

1980年9月8日にオハイオ州で生まれたダニエル・アーシャムは、ニューヨークを拠点に活動し、「白」と「黒」をテーマとした彫刻、絵画、映像、インスタレーション作品などを発表している。

 

アーシャムが手掛けた、タイプ992 911

完成した930 Aは、ここ2年間の「執着」だったと振り返ったアーシャム。彼はポルシェとのコラボレーションで、写真のタイプ992のアートも手掛けている。この作品ではボディ各部にクリスタルを埋め込んでいる。

 

タイプ992に続き、製作されたポルシェのアート作品

 

アーシャムにとって夢の存在だった911ターボは、2年以上もの歳月をかけて取り組まれてきた。そして2020年、彼の強い想いが込められたプロジェクトがついに完成の時を迎えた。

 

彼が個人的に所有する911ターボは、彼のライフワークである「タイムトラベル・コンセプト」と、ポルシェの豊かなモータースポーツの歴史を融合させた、ドライブ可能な芸術作品となっている。

 

「この2年間、930 Aプロジェクトが私の執着の対象でした。走行距離やコンディションが適正なオリジナル車両を探すことからそのディテールに至るまで、私たちは930 Aを作るために一切の手を抜きませんでした」と、アーシャムは振り返る。

 

アーシャムの作品はディストピア(反ユートピア)的なスタイルが特徴で、腐敗と解体を描いてきた。今回のコラボレーションよりも前、彼はポスト黙示録的なスタイルでタイプ992のアート作品を製作。2019年に完成したアート車両は現在、アジアツアーをめぐっている。

 

アーシャムが手掛けた、ポルシェ 911 ターボ

ハンドペイントにより描かれた華やかなカラーリングは、デス・スプレー・カスタムとして知られるデイビッド・グウィザーとのコラボレーションにより完成した。

 

デス・スプレー・カスタムとのコラボで生まれたカラーリング

 

930 Aプロジェクトは「ポルシェのモータースポーツの伝統と、アーシャムの世界観を融合させ、新しいものを生み出すにはどうしたらいいのか」という、シンプルな疑問からスタートした。

 

「私は未来的なポルシェのレーシングチームを想像していました。1980年のディック・バーバーによるポルシェ935 K3や、過去のポルシェの象徴的なレーシングカーを見ながら、これらのデザインを私自身の歴史と融合させました」

 

アーシャムのデザインは911ターボ(タイプ930)の内外装に施され、過去のポルシェの象徴的なレーシングカーを取り上げつつ、ポルシェへの尽きることのない愛情を込めてデザインされた要素が散りばめられている。

 

マグネシウム製RSRリムをオマージュしたカスタムホイール、917のようなシフトノブ、ハンドペイントで描かれたカラーリング、特注のインテリアに至るまで、それぞれのディテールにポルシェのレース史に残る輝かしい瞬間や、アーシャム自身の歴史を辿ることができる。

 

彼が特に気に入っているのは、930 Aのエクステリアデザインだという。レーシングカーにはチームロゴや企業のブランド名を配するのが一般的だが、アーシャムは、デス・スプレー・カスタム(Death Spray Custom:DSC)として知られるアーティスト、デイビッド・グウィザー(David Gwyther)とのコラボレーションにより、930 Aのカラーリングを完成させた。

 

様々なロゴは、アーシャムの過去のコラボレーション、ギャラリーでの展示会、架空の未来のレースにちなんだものが作られている。

 

アーシャムが手掛けた、ポルシェ 911 ターボのエンジン

アーシャムの理想を実現するため、様々なポルシェのスペシャリストが集結。彼の理想を完成させるまでには2年の月日が費やされている。

 

様々なアーティストやスペシャリストの情熱の結晶

 

彼が今回の作品を完成させる上で最も困難だったのは、911ターボの技術的な変更だった。「私は技術面の改造に必要な知識や経験を持っていないので、友人であるテッド・グシュエの助けを借りました。彼はポルシェのスペシャルショップ『Type7』を経営しています」と、アーシャム。

 

レストアやアッセンブリと同時に、エンジンやサウンドシステムの改造が行われた。アーシャムはグウィザー、グシュエに加えて、ホイールメーカー「Fifteen52」を展開するマット・クルークにも協力を求めた。クルークは、アーシャムが求めるRSRのテイストを持ったカスタムセンターホイールキャップを製作している。

 

アーシャムが手掛けた、ポルシェ 911 ターボのインテリア

クラシカルなタイプ930のイメージを残しながらも、近代的でアーティスティックな意匠が随所に施されたインテリア。

 

アーシャムのこだわりが貫かれたインテリア

 

内装はクラシカルな911のインテリアの趣を尊重しつつ、新たなマテリアルを使ったアップデートが試みられた。今回、重厚なストーンウォッシュ加工を施したキャンバス地にネイビーとグレーのレザーを組み合わせ、シート、ダッシュボード、ドア内装に使用している。 

 

また、メーター類もDSCがインテリアの色に合わせて製作し、1980年代に日本へと輸入された911ターボのスピードメーターにちなんで、同心円状リングが採用されている。 

 

コンセプトの立ち上げから、完成まで2年の歳月をかけて製作されたこのアートワークには、数え切れないほどの労力が費やされた。今回のコラボレーションは、ポルシェが単なる自動車ブランドではなく、スポーツカーへの限りない情熱とレース文化によって結ばれた、クリエイティブなエンジニア、デザイナー、エンスージアストたちの集合体であることを証明していると言えるだろう。