大きなチンクエチェント「500X スポーツ」は、コシの強い生パスタだった

公開日 : 2020/09/29 17:55 最終更新日 : 2020/09/29 17:55

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フィアット 500X スポーツの走行シーン

Fiat 500X Sport

フィアット500X スポーツ

 

 

じんわりと元気にしてくれる500X

 

フィアット500Xに乗ると、いつも「いいクルマだなぁ・・・」としみじみ思う。

 

いいクルマとは人それぞれだが、乗れば乗るほどじんわりと幸せに、そして元気になれるところが、何とも素晴らしいのだ。

 

イタリア車というと1にも2にも“パッション”がイメージされ、尖ったデザインとパッキパキの操縦性で、どこまでも脳天気な乗り味を想像しがちだが、実はそうじゃない。こうしたキャラクターは同じフィアットでもどちらかといえば“アバルト”の担当であり、“素”のフィアットは500Xに限らずもっと日常的。イタリアの大衆車、フィアット車は日々の生活をじんわりと、元気にしてくれる乗りものなのである。

 

そういう意味でいうと今回500Xのラインナップに加わった「Sport」は、少しだけ日本人が想像するイタリア車に近い味付けのモデルだと言えるだろうか。その名の通り、スポーティなハンドリングが最大の特徴となる。

 

フィアット 500X スポーツと500X クロスのツーショット

新たにラインナップに加わったフィアット 500X スポーツと、既存の500X クロスのツーショット。SUVイメージのクロスと比べ、スポーツは格段にスポーティな面構えに演出されている。

 

スポーティなハンドリングが特徴の500X スポーツ

 

その足下には通常の500X(16インチ)で3インチ、500X クロス(17インチ)から数えても2インチも大きな19インチタイヤを装着している。これに合わせてサスペンションは、スプリングとショックアブソーバーが専用チューニングで引き締められている。

 

そして500X Sportは外観も、クロスオーバー系のバンパーをスポーツタイプへと変更した。フロントバンパーは両脇のフォグランプをチタンカラーのトリムで囲い、ハニカムグリルを広く取っている。またリヤバンパーはディフューザータイプのアンダーカバーを装着して見た目をスリムに。

 

対してサイドステップにはチタンの差し色を加えず、ボディ同色とすることでボリューム感を強調。ドアミラー、ドアハンドル、10スポークホイールをチタンカラーとすることで、全体の印象を足まわり同様にキリッと引き締めた。

 

フィアット 500X スポーツの走行シーン

足まわりは前後マクファーソンストラット式のサスペンションを採用。スポーツ専用のチューニングが施され、ステアリングも専用セッティングで回頭性を高めている。

 

シャキッとした乗り味は予想以上の心地良さ

 

アルカンターラのステアリングを握りしめて、いざ出発。

 

晴れ渡った箱根の空に、そのシャキッとした乗り味は、予想以上に心地良かった。荷重領域が低いタウンスピードで500X Sportは、爽やかに向きを変える。操舵応答性には500Xクロスのような“ため”がなく、操作した途端に操作した量だけ適切に曲がろうとする。応答遅れも切れ込み過ぎもない、リニアなハンドリングである。

 

19インチタイヤはブロック剛性が高く、乗り味が硬め。しかし乗り心地が悪くならないのは、少ないストロークのなかでもダンパーが、タイヤからの入力を確実に減衰してくれるからだ。大径タイヤの重さやバタつきを、バネ下で感じさせることなく抑え込んでいるのも見事である。

 

500XはSportになっても、エンジンパワーに変更はない。搭載されるエンジンは、昨年登場した1.3リッターの新型直列4気筒ターボ。「ファイアフライ」と呼ばれるこのオールアルミ製エンジンは、従来の1.4リッター直列4気筒マルチエアターボ(140ps/250Nm)から排気量をダウンサイジングしながらも、最高出力で151ps/5500rpm、最大トルクでは270Nm/1850rpmというなかなかの出力を得ている。

 

フィアット 500X スポーツの走行シーン

シート高は500X クロスより13mm低く、スポーティなドライブを助長。試乗した500X スポーツは専用色のセダクションレッドを纏い、他にイタリアブルー、ジェラートホワイト、ファッショングレーの4色が設定される。

 

エンジン回転に伴って元気を増すイタ車らしいセッティング

 

ただアクセルを踏み込んだときの印象は、270Nmのトルクが低回転からモリモリ! どこからでもグングン加速する! という感じではない。それもそのはず500X Sportの車重は、4WDとなるジープ レネゲードと構造を共用することからか1440kgもある。

 

とはいえ低速からの粘り強さは、とても1.3ターボとは思えない。6速DCTのギヤリングも絶妙にこの加速をサポートし、少し硬めの足まわりがその勢いをロスなくタイヤへと伝えて、スーッと転がっていく。

 

そして回転を上げていくほどに、このエンジンはパンチを増す。

 

フィアット 500X スポーツのエンジン

1.3リッター直列4気筒マルチエア16バルブターボエンジンは、最高出力151ps/最大トルク270Nmを発生。トランスミッションは6速DCTを搭載する。

 

小排気量エンジンをターボで回しきるキレの良さ

 

その臆面もない回りっぷり、どんどんアクセルを踏みたくなってしまう気持ちよさには、時代錯誤感やうしろめたさを感じないわけではない。しかしこうした走りと日常における実用性は、吸気バルブのリフト量とタイミングを、油圧とソレノイドバルブで使い分ける、マルチエア技術によってきちんと両立されている。

 

6000rpmに近づくにつれバイブレーションは増えていくけれど、その少し手前でパドルを弾き速度を紡いでいけば、小排気量エンジンをターボで回しきるキレの良さが楽しめる。サウンドだって悪くない。実によくできた実用エンジンだと思う。

 

そんな足まわりとエンジンを組み合わせた走りは、箱根のワインディングでも見劣りしない。それどころか荷重が増えるほどにサスペンションはしなやかさを増し、500Xが持つ本来の姿を示すようになる。コシの強い生パスタのようである。

 

フィアット 500X スポーツのリヤスタイル

筆者いわく「タイヤのグリップに対してプッシュアンダーやトルクステアが出ることもない」と、乗りやすさとスポーティな味付けがバランスされた500X スポーツに高評価を降した。

 

「おっきなチンクエチェント」は、元気で魅力的なコンパクトSUV

 

基本的なハンドリングは弱アンダーステアで安定。しかし切り込めば素直にフロントをグーッと入れていく。ロールスピードはゆっくりしており、高い着座位置でも不安はない。リヤの接地性もきちんと保たれている。駆動方式はFFのみだが、タイヤのグリップに対してプッシュアンダーやトルクステアが出ることもない。

 

これだけシャシーがバランスしているなら、もう少しハイパワーなエンジンで「アバルト仕様」を作ってもよいのではないか? と思えた。輸入車においてはハイエンド思考な日本なら、それも商売になりそうだ。

 

ともあれ500X Sportは、それまで玄人好みだった500Xに、わかりやすさを加えた。MINIとMINIクロスオーバーの関係にまでは認知されていないけれど、今度の「おっきなチンクエチェント」は、元気で魅力的なコンパクトSUVに仕上がっている。

 

楽しいクルマで人生を楽しみたいなら、候補に入れるべき一台である。

 

アバルト595C ピスタの走行シーン

今回の試乗会では、限定車のアバルト595C ピスタもドライブすることができた。アバルトというスポーツ色の強いモデルだけに、5速MT仕様が5速AT仕様よりも設定台数が多いのが「らしい」ところ。

 

Abarth 595C Pista

アバルト595C ピスタ

 

“ピスタ”の名に反して極めてオーソドックス

 

当日は、アバルト595の限定車(240台)である「Pista C」にも試乗した。これは欧州の標準モデル(幌仕様)に165psバージョンのエンジンとコニのFSDダンパー(リヤのみ)、さらには17インチタイヤとエアロを組み合わせた仕様で、同じ595のオープントップ版となる「595C ツーリズモ」(396万円)よりもお買い得な値段設定となっているのが最大の特徴だ(クローズドモデルのPistaは328万円~)。

 

その走りは、外観の派手さやピスタ(レーストラック)という名前に比べて極めてオーソドックス。足まわりはロールをきちんと抑えながらも、いたずらに硬くされていないから、重心の高いボディを安心して走らせることができる。またトランスミッションは未だに5速だが、MTの方が61台と(クローズドモデルは95台)、5速AT(33台。クローズドモデルは51台)より多く設定されているのが面白い。

 

アバルト595C ピスタのエンジン

搭載する1.4リッター直列4気筒DOHCターボはベースモデル比で20psアップの最高出力165psを発生し、最大トルクは230Nm(SPORTスイッチ使用時)を発揮。ハイパフォーマンスエキゾーストシステム、レコードモンツァを標準装備する。

 

アバルトらしく5速MTで振り回せば夢中になれる

 

もちろんエンジンは、アバルトらしさ全開。ターボの過給圧が上がるまではなんとも心許ないが、ゾーンに入ると弾ける特性は、優等生ばかりのBセグコンパクトでは希有な存在で、これを5速MTと、もっちりとした足まわりで走らせれば運転に夢中になれる。

 

次期型チンクェチェントがEVとして登場し、アバルトの先行きがどうなるのかは不明だが、だからこそガソリンターボ時代のアバルトは貴重な存在になるかもしれない。敢えて昔流に言えば“レコルトモンツァ”マフラー、そのサウンドを聞けるのは今のうちか?

 

アバルト124スパイダーの走行シーン

間もなく生産が終了するというアバルト124スパイダーも走り納めか? 1.4リッター直4ターボはフロントミッドに搭載され、リヤホイールに最高出力170ps/最大トルク250Nmを伝達する。

 

Abrth 124 Spider

アバルト124スパイダー

 

アバルト124スパイダーは、8割で走らせると最ッ高なクルマだ。そして10割で走らせるとバランスが崩れる。それはそうだろう、ベースはグラム単位で軽量化にこだわった「マツダ ロードスター」なのだから。このシャシーに重たい過給機付きエンジンと、前後バンパーを備えたら、あの神経質なまでに突き詰められたハンドリングは崩れてしまう。

 

リヤ回りのブッシュが、動きを止め切れていないのか? でも、もしそれを硬くしたら、この得も言われぬ「80%の気持ちよさ」が失われてしまうだろう。簡単にいうと、イタリア車がドイツ車になる。もっと大らかな相手を選べばよかったのにね・・・ないけれど。

 

アバルト124スパイダーのシート

スポーツドライビングに寄与するハイバックのバケットシートを備え、コンベンショナルな3連メーター越しにコーナーを臨むアバルト124。今こそ再評価すべきモデルの1台と言えるだろう。

 

乗りこなす楽しさがある“危うい”バランス

 

ただこうしたアンバランスが、今では悪いとあまり思わない。日常ではひたすらに気持ち良く走り、170psのターボパワーを後輪に炸裂させるときは、自分で責任を取る。10割だとバランスは崩れるけれど、乗りこなすのは最ッ高に面白いのだ。この危うさ、嫌いじゃない。

 

8月でマツダが生産終了をアナウンスした124スパイダー。これを時代のあだ花とかたづけるには、あまりに乙(オツ)。人間もクルマも、完璧でないからこそ面白みがある。

 

 

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)

PHOTO/FCAジャパン

 

 

【SPECIFICATIONS】

フィアット 500X Sport

ボディサイズ:全長4295 全幅1795 全高1610mm

ホイールベース:2570mm

トレッド:前後1545mm

車両重量:1440kg

エンジン:直列4気筒マルチエア16バルブ インタークーラー付ターボ

総排気量:1331cc

圧縮比:10.5

最高出力:111kW(151ps)/5500rpm

最大トルク:270Nm/1850rpm

トランスミッション:6速DCT

駆動方式:FWD

サスペンション形式:前後マクファーソンストラット

ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク

タイヤサイズ:前後225/45R19

燃料消費率(WLTC):13.4km/L

車両本体価格:344万円(税込)

 

 

【問い合わせ先】

CIAO FIAT

TEL 0120-404-053

 

 

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・FCAジャパン公式サイト

https://www.fcagroup.jp/