4ドアスポーツカーの頂上決戦! 英独伊のプレミアムスポーツサルーンを一気試乗 【Playback GENROQ 2017】
公開日 : 2020/10/16 17:55 最終更新日 : 2020/10/16 17:55
MASERATI QUATTROPORTE S × P0RSCHE PANAMERA TURBO × ASTON MARTIN RAPIDE S
マセラティ クアトロポルテS × ポルシェ パナメーラ ターボ × アストンマーティン ラピードS
美と実用の悦楽
近年のサルーン界において、ひとつのトレンドとなっているのが高級スポーツカーブランドの進出だろう。サルーンといえど、実用性よりも走りの楽しさや美しさを重視するそのスタイルは、彼らの哲学を如実に表す存在だといえる。イギリス、ドイツ、イタリアを代表するスポーツサルーンを駆って、その真の姿を明らかにしてみよう。
「移動時間すら楽しみにしたい。ターゲットはそんな人たちだ」
ラージクラスのプレミアムサルーンに新たな潮流が生まれている。生粋のスポーツカーブランドの手で生み出された、フォーマルなだけには染まらないサルーン達が続々登場しているのである。
無論、これらのモデルが主眼としているのはエグゼクティブの移動手段としてのあり方だろう。しかしながら、そんな時間すらも無味乾燥なものに終わらせたくないという人、自らステアリングを握ることを、むしろ歓びとする人は少なからずいて、ターゲットはまさに彼らとなる。
「先代よりもより“ポルシェらしい”と感じさせるスタイリング」
そんな新しいカテゴリーの代名詞的な存在がポルシェ パナメーラだということに異存はないだろう。賛否渦巻く中で登場した初代は、結果としてモデルライフ中に10万人以上のユーザーの手に渡り、一躍そのポジションを確かなものとした。
フルモデルチェンジを受けて登場した2代目は、まずそのスタイリングで多くの人を惹きつけるに違いない。ルーフからリヤエンドにかけてのラインは、紛れもない911を彷彿とさせるもので、つまり、より“ポルシェらしい”と感じさせるものになっている。サイズを意識させない凝縮感、緊張感も特徴的だ。
「後席はホールド感こそタイトだが、収まってしまえば案外寛げる」
インテリアはラグジュアリーさと先進感をうまく両立させているが、エアコンのルーバー調整すら大型タッチパネル上でやらせようとするなど、操作系にはやり過ぎの感もある。着座位置は典型的なポルシェらしく低め。さすがに後席は期待できないかと思いきや、ホールド感こそタイトなものの頭上には余裕があるし前方視界も開けていて、収まってしまえば案外寛げる。大事なゲストを招くのも気後れは無用だろう。
日常域のパナメーラ ターボの走りは拍子抜けするほどジェントルだ。エンジンレスポンスはそれほど研ぎ澄まされてはおらず、乗り心地もふんわりと表現したいくらいソフト。荒れた舗装を通過すると鋭い入力を食らうなど、ちょっとこなれていない部分も見受けられるが、ロングクルージングはとても安楽だ。
「セオリー通りに走らせれば、ひたすらに速い」
ところがワインディングロードで「スポーツ・プラス」モードに切り替え、右足に力を込めると、最高出力550psのV型8気筒4.0リッターツインターボ・ユニットはやおら切れ味が鋭くなる。シューッと思い切り空気を吸い込むようなノイズとともに一気にトップエンドまで駆け上がり、ワープ感覚で速度が高まっていく様は、まさに“ポルシェ・ターボ”のそれ。狭い山中では一瞬ですら全開にするのも躊躇われる、仰け反るような速さを見せる。
面白いのは、そうやって飛ばすほどにクルマが小さくなっていくかのような凝縮感が出てくるところ。実際、リヤアクスルステアの効果もあってかタイトコーナーでもノーズの入りは上々。トラクションも強烈だから、セオリー通りに走らせれば、ひたすらに速い。但し、強いて言えば、進入で頑張り過ぎた時や、切り返しの時などにはクルマの重さを意識させられることもある。こういう場面での機敏なアスリート感覚は先代の方が強かったかもしれない。
「伊達男にぴったりな1台を選べと言われたら、文句なしにコレ」
パナメーラの横に置くと、いかにも大きく見えるマセラティ・クアトロポルテSだが、実際に全長は200mm以上も長く、エレガントな雰囲気を醸し出している。伊達男にぴったりな1台を選べと言われたら、文句なしにコレだろう。
インテリアも良い意味でクラシカルで、濃密な色気を感じさせる。着座位置はそれほど低くはないが、ポジションはしっかり決まる。一方、後席は座面こそ落ち窪んでいるもののスペースはたっぷりしており、今回の3台の中ではもっとも落ち着いて過ごすことができる。外観を含めて、正統派サルーンとしての要素が一番色濃いのに、発散する色香もまた強烈なのだから本当に伊達である。
「本領を発揮するのは、ひたすら続く直線よりも、やはりコーナーの連続だ」
走りも、やはり典型的なイタリア車の雰囲気だ。但し、それはちょっとした嫌味も含んでの話で、サスペンションはさほど硬いわけではないのだが、常に浮足だった感じで路面に吸いつくような安定感に乏しい。ステアリングも常にちょろちょろとして、真っ直ぐ走るのにも常に若干の緊張感が強いられる。
一方、文句なしに気持ち良いのがV型6気筒3リッターツインターボのエンジンだ。サウンドもレスポンスも、とにかく素晴らしい。まさに無意味に加減速を繰り返したくなるようなフィーリングである。
本領を発揮するのは、ひたすら続く直線よりも、やはりコーナーの連続だ。エンジンのドラマティックな伸び感、そしてパワーの盛り上がりには気分が昂揚するのを抑えられなくなるほど。このクルマに乗って、自制心を保てる人なんているのだろうか? なんて思えてしまう。
「次のコーナーが待ち遠しくなるほど、夢中になれる」
Dレンジでも常に適切なギヤを選び、必要とあればブリッピング込みのダウンシフトまで行なうATのマナーも上々。大きなパドルを弾いてマニュアルシフトをしても変速感はダイレクトだし、タイトコーナーで躊躇なく1速を使えるなど、トランスミッションの完成度は抜群だ。
そして半ば予想通り、フットワークも軽快感が際立っている。印象的なのはノーズの入りの良さで、初期応答がクイックなだけでなく、その後も思い描いた通りのラインで容易にインに寄せていける。このステアリングとコントロール性に優れたブレーキを駆使して、コーナーをひとつひとつ攻略していくのは、まさにスポーツドライビングの醍醐味。そこにアクセルのタイミングも合わせれば、レスポンスに優れたエンジンのおかげもありテールを踊らせるのだって容易い。ひとつのコーナーを抜けるそばから、次のコーナーが待ち遠しくなるほど、夢中になれる。

今回試乗した3台の中ではもっともハイスペックな最高出力560ps/最大トルク630Nmを発生する6.0リッターV12を搭載。サルーンながら最高速度は327km/h、0-100km/h加速は4.4秒と、純粋なスポーツカーに引けをとらないパフォーマンスを発揮する。
「サルーンとして括るのは、このクルマには当てはまらないかもしれない」
見た目に最もスペシャルティ感が際立っているのが、アストンマーティン ラピードSだ。かろうじて4ドアではあるが、フォルムは紛うかたなきアストンマーティン。サルーンとして括るのは、このクルマには当てはまらないかもしれない。
乗り込んだ瞬間、思わず息を飲むインテリアの仕立てにも唸らされるばかりだ。隅々まで上質なレザー張りとされ、天井にまで装飾的なディテールが反復された、その演出には、ただ圧倒されてしまう。
「特等席は間違いなくドライバーズシートだ」
もっとも、犠牲がないわけではない。後席はその典型で、ちゃんと座ろうとしたら頭が天井につっかえるから、お尻を前にずらさなければならないし、そうすると今度は足の置き場に困ってしまう。後席は言い訳として付いているだけと言ってもいいほどだ。ちなみに荷室も、やはり最小限でしかない。
特等席は間違いなくドライバーズシートである。V型12気筒6.0リッター自然吸気ユニットの右足と直結したかのようなリニアなピックアップ、めくるめくサウンドには、それこそ渋滞の高速道路を這い回っている時ですら心酔できた。ロードノイズは小さくないが、ステアリングは路面を直接なぞっているかのような生々しい手応えを返してくる。クルマとの一体感は半端ない。但し、低速域のブレーキのコントロール性は良好とは言えず、ストップ・アンド・ゴーの繰り返しとなる渋滞の中では少々キツかったのは事実である。
「生々しく裏切り感のない、澄んだフットワークを楽しませてくれる」
溜まった鬱憤を発散するように、ワインディングロードではアクセルを踏み込んだが、ラピードSは素晴らしいレスポンスでそれに応えてくれた。トップエンドに至るまでスムーズに、刻々とサウンドを変化させながら吹け上がっていくエンジンはやはり最高。ターボ慣れしつつある身体にはシフトアップ直後のトルクが薄く感じられたりもするが、不満というほどのものではない。
電子制御によるトッピングのほとんどないシャシーは、オーガニックな感触とでも言おうか、生々しく裏切り感のない、澄んだフットワークを楽しませてくれる。ターンインはニュートラルで悪くないし、コーナー中盤からはアクセルでトラクションを調整し、クルマを丁寧に曲げながら前に進めていく、いかにも古典的FRらしい走りを楽しめる。実は事前には、きっともう古臭く感じてしまうかなと、大きな期待は抱いていなかったのだが、何のなんの実際には大いに満足させてくれたのだ。
「それぞれの個性はしっかりとある。乗り比べれば、迷うことはないはずだ」
スポーツカーブランドが手掛けたラージクラスのプレミアムサルーン3台を連ねて、都内の渋滞、高速道路、そしてワインディングロードを走りに走った今回の取材。様々な舞台でたっぷりとステアリングを握って、それぞれの実力、そしてキャラクターの違いを、じっくりと見極めることができた。
目的地には必ず時間通りに到着し、リラックスして安全に、しかも楽しく帰るための選択としては、パナメーラ ターボがベストだろう。あるいはマセラティ クアトロポルテSを選んだなら、帰りはお気に入りのワインディングロードに寄り道して帰ることになりそうだ。ではアストンマーティン ラピードSはと言えば、おそらくペースは他の2台ほどに上がらないかもしれないけれど、移動時間の充足度は高そう。寄り道などしなくても、十分に満足できそうな気がする。
無難ではあるが安心できる選択でもあるフォーマルという縛りから離れるつもりなら、クルマ選びには、そしてその使い方には乗り手が最大限のセンスを発揮する必要がある。難しい選択になりそうだなと事前にはちょっと心配したが、実際にこうして乗り比べてみると、それぞれ想像以上に個性が立っていて、これなら迷うことはないだろうと確信した。ここまで読んで「自分はコレかな」という1台にピンと来てくれたなら、とても嬉しく思う次第である。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/菊池貴之(Takayuki KIKUCHI)
【SPECIFICATIONS】
マセラティ クアトロポルテS
ボディサイズ:全長5270 全幅1950 全高1470mm
ホイールベース:3170mm
車両重量:2000kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2979cc
最高出力:302kW(410ps)/5500rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/1750-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/40ZR19 後275/40ZR19
最高速度:286km/h
0-100km/h:5.1秒
燃料消費率:9.6リッター/100km
車両本体価格:1406万円
ポルシェ パナメーラ ターボ
ボディサイズ:全長5050 全幅1950 全高1425mm
ホイールベース:2950mm
車両重量:2040kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550ps)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前410mm 後380mm
タイヤサイズ(リム幅):前275/40ZR20(9.5J) 後315/35ZR20(11.5J)
最高速度:306km/h
0-100km/h:3.8秒
JC08モード燃費:10.0km/リッター
車両本体価格:2377万円
アストンマーティン ラピードS
ボディサイズ:全長5019 全幅1929 全高1360mm
ホイールベース:2989mm
車両重量:1990kg
エンジン:V型12気筒DOHC
総排気量:5935cc
最高出力:411kW(560ps)/6650rpm
最大トルク:630Nm(64.2kgm)/5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前400mm 後360mm
タイヤサイズ:前245/40R20 後295/35R20
最高速度:327km/h
0-100km/h:4.4秒
燃料消費率:12.9リッター/100km
車両本体価格:2305万8457円
※GENROQ 2017年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
【関連リンク】
※雑誌版は販売終了
|
|