GR ヤリスは心底痛快なスポーツカー! 本気の国産アスリートに渡辺慎太郎が試乗

公開日 : 2020/11/30 17:55 最終更新日 : 2020/12/17 22:33

GR ヤリスのフロント走行イメージ

GR Yaris

GR ヤリス

 

ホイールベースを延長??

 

GR ヤリスとは、トヨタ ヤリスをベースにボディを2ドアにしてパワフルなエンジンと4WD機構を採用しスポーティな足まわりを装着したクルマ程度のものだと思っていた自分は浅はかだった。それがビジネスや戦略的に正しいのかどうかはともかく、GR ヤリスとトヨタ ヤリスはまったく別のクルマである。

 

トヨタ ヤリスのボディサイズは全長3940mm、全幅1695mm、全高1500mm、ホイールベース2550mm。GR ヤリスは全長3995mm、全幅1805mm、全高1455mm、ホイールベース2560mm。前後のバンパーを大きくして全長が伸び、スポーツサスペンションを組み込んで全高が下がり、大きなタイヤを装着するので全幅が拡がる、というのはよくあるけれど、同じプラットフォームなのにわざわざホイールベースを10mm伸ばしているのか! と驚いたが、実際にはフロントのキャスター角をあらためて設定し直した結果、数値上ではそういうことになったらしい。ちなみにGR ヤリスのベースはGA-Bプラットフォームだが、リヤはプリウスやCH-Rと同じGA-Cプラットフォームを使用しているという。

 

GR ヤリスのフロントイメージ

トヨタが初めて「モータースポーツ用の車両を市販化する」という発想のもとで送りだしたGR ヤリス。キャッチコピーは「BORN FROM WRC」を謳う。

 

直線よりも「曲がる」を重視

 

全高が低くなったのもサスペンションのせいだけではなく、ダウンフォースを稼ぐためにリヤスポイラーの効果を引き出そうとルーフ後端を下げているという。Cピラーからリヤにかけて絞り込んだ造形としたのもダウンフォースを得るため。

 

ダウンフォースを有効に使えば、ボディが路面に押しつけられてタイヤの接地性が上がり、トラクション性能や操縦性が向上するが、最高速や加速性能は(ダウンフォースがブレーキのような効果も発揮してしまうので)やや落ちる。つまり真っ直ぐ速く走ることよりも速くよく曲がるデザインになっている。

 

GR ヤリスのサイドビュー

GR ヤリスのボンネット/ドア/ハッチゲートはアルミ製。ルーフには新工法のC-SMC(炭素繊維強化シート成形複合材料)を採用している。ボディ下面の広範囲をアンダーカバーで覆うなど、空力性能も徹底して追求したという。

 

クルマにとっての百薬の長とは

 

GR ヤリスがトヨタ ヤリスと異なるのはカタチだけではない。ボンネット/ドア/ハッチゲートはアルミ製、ルーフには新工法のC-SMC(炭素繊維強化シート成形複合材料)が使用されている。

 

これでさぞかし軽くなったのだろうと両車の諸元表を見比べてみたら、トヨタ ヤリスのもっとも重い1.5リッターハイブリッドのE-Four(4WD)でも1180kgしかなく、1280kgのGR ヤリス(2WDのRSは1130kg)より100kgも少なくて逆にトヨタ ヤリスの軽さに驚いた。以前、トヨタ ヤリスのハイブリッド(2WD)に乗って都内をウロチョロしたら燃費が約24km/Lでビビったが、やっぱり軽量は百薬の長なのである。

 

GR ヤリスのエンジンコンパートメントイメージ

GR ヤリスの「RC」及び「RZ」は1.6リッター直3ターボエンジンを搭載。「RZ “High performance”」にはインタークーラーへスプレー状にした水を吹きかける冷却機能も標準装備する。

 

法外にパワフルな直列3気筒

 

GR ヤリスには2種類のパワートレインが用意されている。1618ccの直列3気筒ターボ+6速マニュアルトランスミッションと1490ccの直列3気筒自然吸気+CVTで、それぞれ272ps/370Nm、120ps/145Nmを発生する。

 

ちなみに先日試乗したメルセデス・ベンツE 200スポーツが搭載していた同じような排気量の1496cc直列4気筒ターボのパワースペックは184ps/280Nmだった。GR ヤリスのメインユニットとなる3気筒ターボが法外にパワフルであることが分かる。

 

「G16E-GTS」と呼ばれるこのエンジンはGR ヤリスのために新たに設計されたユニットで、ラリーの常用域で最大のパフォーマンスが引き出せるよう、ほぼスクエアに近いボア×ストローク(87.5×89.7mm)を設定。燃料供給機構は直噴とポート噴射を併用するデュアルインジェクションを採用している。

 

GR ヤリスのコクピットイメージ

GR ヤリスは、廉価グレードの「RS」のみCVTを搭載。競技ベース用の「RC」及び訴求グレード「RZ」は6速MTを1.6リッター直3と組み合わせる。

 

抵抗や重量を徹底的に減らす

 

このエンジン、軽量化と高レスポンスを追求したそうで、アルミ製のシリンダーブロックはウォータージャケットの底を浅くし、シリンダーヘッドもアルミ製、カムシャフトは中空でクランクシャフトとピストンも生産技術による軽量化を図っている。

 

ターボの軸受けにはセラミックのボールベアリングを採用、フリクションロスの低減を実現した。エンジンの本体となるブロックやヘッドは高剛性かつ軽量で、カムやクランクやピストンといった可動部品は軽くフリクションの少ない高精度な加工を施し、要するに綺麗に効率良く回るエンジンとしている。

 

GR ヤリスのフロント走行イメージ

GR ヤリスのエンジンは「匠」と呼ばれる熟練工が一点一点組み上げることにより、理想的な回転フィールを追求している。

 

レースカー並みの手組みエンジン

 

専用の工場で1基ずつ手組みされていることも、G16E-GTS型の特徴のひとつである。ピストンやコンロッドはひとつひとつ計測し、同等の質量のものを選出して組み上げているという。

 

鋳造や鍛造や機械加工(切削)によって作られる部品の仕上がり寸法は、「公差」によって管理されている。生産技術が向上したからといって寸法も質量も寸分違わない部品を生産するのは不可能に近く、許容される範囲内に収まっていればヨシとされており、この許容範囲が公差である。

 

公差はコンマmm単位の規定なので、目で見て分かるようなレベルではないものの、それでも仕上がりの寸法と質量が近い部品で組んだ方が、特にエンジンの回転フィールなどに大きく影響を及ぼす。こうした生産管理はレーシングカーのエンジンでは当たり前だが、それをプロダクションモデルにも持ち込んでいる。

 

GR ヤリスのリヤ走行イメージ

GR ヤリスは“GR-FOUR”と呼ぶアクティブトルクスプリット4WDシステムを採用。スポーツモード付きVSCやトルセンLSDと合わせて運動神経を最大限にまで高めている。

 

駆動トルク配分による三種三様の走り

 

4輪駆動システムもまたGR ヤリス専用である。“GR-FOUR”と命名されたアクティブトルクスプリット4WDは、リヤデフ前方に置かれた電子制御式多板クラッチの圧着率により前後の駆動トルク配分を可変する。

 

4WDモードは3種類で、ノーマルは前60:後40、スポーツは前30:後70、トラックは前50:後50。ざっくり言えば、普段はFF、スポーティな走りをしたいときにはFR、ラリーのようなグラベルでは前後にしっかりとトラクションがかかるグリップ走行が楽しめる設定となっている。さらに前後にトルセンLSDを装着しているので、前後だけでなく左右でもトルク配分を制御する。

 

GR ヤリスのフロント走行イメージ

自然吸気エンジン+CVTを積む「RS」には4WDのモード切り替えもないし、サスペンションの設定も少し穏やかだが、それにしてもGR ヤリスというクルマの雰囲気は想像以上に味わえた。何より265万円という価格は親しみやすい。

 

当初の懸念を覆した乗り心地

 

今回は伊豆の山中を中心とした試乗ルートだったので、限界域云々の評価はできないけれど、日常域でGR ヤリスとはどんなクルマだったのかはお伝えできると思う。個人的にも懸念していた乗り心地は普段の生活で使う領域での許容範囲内にある。

 

GR ヤリスはRS、RZ、RZ“High Performance”の3つのグレードが用意されていて、サスペンションのチューニングはそれぞれ異なっている。具体的には、フロントはばね定数/スタビライザー/ダンパー減衰力、リヤはダンパー減衰力をそれぞれに設定した。

 

サスペンションの形式はフロントがストラット、リヤはダブルウィッシュボーンで、RZの2タイプは専用のジオメトリーを採用する。こんな説明を聞かされたから、「きっと乗り心地はハードだろうな」と身構えたところ、同乗者から苦情が出るほどの硬さではなかった。

 

原因はいろいろ考えられるが、ひとつはボディの高剛性。ボディがしっかりすればサスペンションは狙い通りによく動くし、ボディのNVも一般的には抑え込める。ばね下の軽さも乗り心地に貢献していると想像できるが、もうひとつはシート。セミバケット風のスポーツシートは見るからにやる気満々な感じだが、ホールド性はもとより荷重分布が広く適度なクッション性があって身体に優しかった。

 

GR ヤリスのブレーキキャリパーイメージ

GR ヤリスはRZグレードにフロントアルミ対向4ポットキャリパー/リヤアルミ対向2ポットキャリパーを装着。RZ “High performance”のみ標準でレッド塗装仕上げとなる。

 

コントロールは右足で

 

ハンドリングは端的に言えばステアリングよりもスロットルペダルで曲げていくタイプである。これはラリーを仮想の使用環境と考えた開発とすれば納得のいくセッティングである。もちろんステアリング操作に対するボディの動きはレスポンスよく正確だが、ターンインの後から再加速までの過渡領域でクルマの挙動をコントロールしたいときには、ステアリング操作よりもスロットルペダルを使った方が早い場面が何度かあった。これはつまり、状況が許せばオーバーステアからのいわゆる“ドリフト”も楽しめるということである。

 

最近のラリーではグリップ走行のほうがタイムが上がるので以前のようなドリフト大会にはなっていないものの、クルマと繋がっているとかクルマの動きを支配下に置くとか、そういったことを実感する手段としてドリフトは分かりやすい方法のひとつだと思う。そしてこの乗り味を可能としているのは足まわりだけでなく、瞬発力のあるパワフルなエンジンやトラクションロスの少ない4WD機構との相乗効果の表れである。

 

GR ヤリスのスティックシフトとロゴイメージ

マスタードライバーのモリゾウ(トヨタ自動車 豊田章男社長)の「トヨタのスポーツカーを取り戻したい」という想いのもとで生まれたGR ヤリス。プレートには「Developed For FIA World Rally Championship」の文字が刻まれる。

 

GRは「AMG」や「M」になれるか

 

GR ヤリスだけを見れば、誠に痛快で運転が心底楽しめるスポーツカーであり、こういうクルマはしばらく日本車ではお目にかからなかったので日本人としても嬉しい限りである。一方で、「こんなのを作っちゃって今後は大丈夫なんだろうか」とも思った。

 

GRというブランドは、BMWのMやメルセデスのAMGのような存在をおそらく目指しているのだろう。MやAMGには独特の“味付け”がちゃんとあって、全車に同じ香りが漂っている。少なくとも現時点でGR スープラとGR ヤリスに共通の味はほとんど感じられない。

 

GR ヤリスのリヤビュー

GR ヤリスは、元町工場に新設された専用のライン“GRファクトリー”で生産される。大量生産工場でお馴染みのコンベアはなく、複数のセルと無人搬送車で構成されたラインで小型車をつくるということは、トヨタにとっては大いなる挑戦といえる。

 

少し意地悪な言い方をすれば、専用工場を作りあれだけの工数と手間と人員とコストをかければこれくらいのレベルになっても当然であり、でも今後登場するであろう「GR」のクルマがすべてGR ヤリスと同じ作り方はきっとできないだろうなとも思うわけで、果たしてどうするつもりなのかが心配でもあったりする。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO/峯 竜也(Tatsuya MINE)

 

 

【SPECIFICATIONS】

GR ヤリス RZ “High performance”

ボディサイズ:全長3995 全幅1805 全高1455mm

ホイールベース:2560mm

車両重量:1280kg

エンジン:直列3気筒DOHC直噴ターボ

総排気量:1618cc

最高出力:200kW(272ps)/6500rpm

最大トルク:370Nm/3000-4600rpm

トランスミッション:iMT(6速MT)

駆動方式:4WD

サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後ダブルウィッシュボーン

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ:前後225/40ZR18

車両本体価格:456万円

 

 

【問い合わせ】

トヨタ自動車

TEL 0800-700-7700

 

 

【関連サイト】

・TOYOTA GAZOO Racing 公式サイト

https://toyotagazooracing.com/jp/gr/yaris/