ロールス・ロイスのすべてが詰め込まれた「ファントム」という名の頂点 【Playback GENROQ 2017】

公開日 : 2020/12/06 17:55 最終更新日 : 2020/12/06 17:55

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ロールス・ロイス ファントムのフロントスタイル

ROLLS-ROYCE PHANTOM

ロールス・ロイス ファントム

 

 

芸術品の領域へ進んだ8代目ファントム

 

BMW傘下となって初のフルモデルチェンジとなる8代目ファントム。90年以上に渡り世界のVIPたちを魅了してきた最高峰サルーンである。新型にはオールアルミ製のプラットフォームや最新の運転支援システムなど、ロールス・ロイスが持ちうる技術の粋のすべてが注ぎ込まれた。もはや芸術品ともいえる新型ファントムの世界をご覧いただこう。

 

ロールス・ロイス ファントムの走行シーン

8世代目となる新型ロールス・ロイス ファントム。パワートレインは6.75リッターV12ツインターボを採用し、最高出力571ps/最大トルク900Nmを発揮。2.5トンを超える重量級ボディを静粛かつパワフルに移動させる。

 

「ファントムの後席は極上の“睡眠空間”であった」

 

新型車の試乗リポートのはずなのに、のっけから運転席とまるで関係ない話で申し訳ないが、こんなによく寝た試乗会は初めてだった。そう、新型ファントムの後席がたまらなく心地よかったからだ。ホイールベース3772mmを誇るエクステンドモデルはもちろん、3552mmのノーマルモデルでも、それは極上の“睡眠空間”であった。

 

海外試乗会の場合、通常、ジャーナリストは2人ずつの組になる。運転者とナビに分かれてフロントシートに収まるわけだが、この特別な日の朝は違った。カッパーゴールドとホワイトの2トーンカラーもド派手な新型ファントムのドライバー席を台湾人ジャーナリストのエンツォさんに譲った僕は、問答無用で後席に乗り込んだ。むろん、ファントムというクルマの使われ方が、まずはショーファードリブンとして成り立っていることを意識しての、それは当然の行いだと思うのだが、どうか。

 

ロールス・ロイス ファントムのリヤシート

後席はラウンジシート、格納式アームレスト付き個別シート、固定式センターコンソール付き個別シート、スリーピングシートから選択可能。固定式個別シートには、ドリンクスキャビネットが備わる。また前席背面には電動格納タイプのモニターを標準装備する。

 

「乗り心地が良いだけでなく、圧倒的に静かだ」

 

包み込むというよりも姿勢よく座らされると言ったほうがいい。それが以前からファントムのリヤシートの常識である。けれども、少し背を倒し、フロアの足踏み台を上げてわが身をゆったりと預けてみれば、たちどころにリラックスできる。

 

エンツォさんが走り始めた。湖畔の道を流す。乗り心地、最高やな〜。気がつけば、いつの間にか湖畔を離れて高速道路を巡航していた。またすぐに、ウトウト。ウインカーの音がかすかに聞こえてきた。目を覚ますと、そこはもう運転交代のためのポイントだった。

 

ノーマルボディでもそんな具合なのだから、ロングボディのエクステンドは言うまでもない。いずれも乗り心地が良いだけでなく、圧倒的に静かだ。室内が広いにも関わらず、前席の会話(エンツォさんと通訳さんの台湾語)がよく聞こえる。否、正直に言うと、低速域でははっきりと路面からの突き上げを感じるときがあった。けれども、それは最初のうちだけで、そのうち消えてしまう。エンジン音はまるで聞こえてこない。ドライバーが強めに加速したとき初めて、遠くの方でかすかに唸っているのが聞こえるのみ。ドア側に身を預けてみても、風切り音がまるでしない。空気を無音で切り開いて走る感覚は、ちょっと異様だ。タイヤからのパターンノイズもない。タイヤのなかにインシュレーターが入っているらしい。それでいて、ちゃんと路面に接している感じはするのだから、間違いなく地に足がついていて、幽霊の類ではない。

 

ロールス・ロイス ファントムのインテリア

ロールスが「ザ・ギャラリー」と呼ぶインテリアは、助手席にいたるまでダッシュボードをガラス張りに仕立て上げている。メーターは強化ガラスで覆われた12.3インチのTFTディスプレイを採用。デジタル化しつつ、ラグジュアリーな世界観を演出しているのは流石だ。

 

「これが真にフラットかつ重厚だとすれば他のクルマに当てはめていい表現ではない」

 

フラットかつ重厚に乗せられている、と書けば当たり前だと言われそうだ。けれども、本当にそう書く他ない乗り味だ。これが真にフラットかつ重厚だとすれば他のクルマに当てはめていい表現ではない。車載カメラの情報からダンパー特性を変化させるアクティブサスコントロールは、特にパッセンジャーに有効だ。ちなみにリヤから吹き出すエアコンの音が最もうるさかった。湖面が穏やかに、きらきらと、そして深く輝いている。それはまるで、ファントムの後席の乗り心地のよう・・・。

 

ドライバーズシートに収まった。“ザ・ギャラリー”と称するダッシュボードをじっくり見たいばかりに、ナビモニターを仕舞い込む。どうせしばらくは道なりだ。後席には台湾の2人が乗り込んでいる。裕福な観光客を目的地まで運ぶ風情のショーファーを買って出たのだった。後席からの会話もまた、前席によく聞こえる。後から追いかけてくるバイクの音も、はるか遠くに聞こえている。運転席の印象も、非常に静かというのが第一だ。そして、フラットなライドフィールまでは後席と同じで、重厚というのとは少し違う。クルマの動きは、ゼロ発進時こそ“ジワジワジワ〜ッ”と押し出すように優しく粘り気のある精密な制御で走りだす(わずか1700rpmから900Nmものトルクを発するが、精妙にコントロールされているのが分かる)が、そこからはもう、ドライバーの意のままだ。軽快、というのともちょっと違うのだけれど、自由に動く感覚があり、やっぱり軽やかな走りだという他ない。

 

ロールス・ロイス ファントムの走行シーン

新設計のアルミスペースフレームは「走り」へのこだわりを随所に感じさせた。筆者は「ショーファーとしてもオーナードリブンとしても最高」とファントムを評価する。

 

「アルミスペースフレームがもたらす軽やかな走りはロールスの新境地だ」

 

狭いワインディングもものともしなかった。新設計6.75リッターV12ツインターボは、縁の下の強力持ちで、猫なで声程度の唸りを上げつつ、巨体を前へ押し出していく。ブラインドコーナーから急に対向車が出てきた。慌てふためかずに対処できる。クルマがドライバーの意思通りに動くという感覚を、ちょっと走り出しただけで掴んでしまえるからだ。信頼感、安心感と言ってもいい。これは、軽くいっそう丈夫になった新設計のアルミスペースフレームによるところが大きい。ちなみに、この新設計スペースフレームは今後のモデル、SUVのカリナンから、次世代のゴースト系まで、すべてに使用される。それだけ、“走り”へのこだわりが増している。

 

ノーマルボディを存分に楽しんだのち、エクステンドを試した。後席でたっぷり休んだのち、ステアリングを握る。面白いことに、ノーマルとさほど印象が変わらない。タイトベントでも、リヤステア(最大3度)のおかげで、長さを気にすることなく、がんがん曲がっていける。ドライブフィールはほとんど同じ、か、むしろロングボディのほうが安定していて楽しいと思ったほど。名所フルカ峠のヘアピンカーブも意に介さない、どころか、エンツォさんなどは、前をいくアウディ RS3をアオリまくっていた。

 

ショーファーとしてもオーナードリブンとしても最高。どんなお金持ちでも一度に両方は楽しめないが。

 

 

REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/ROLLS-ROYCE MOTORCARS

 

 

【SPECIFICATIONS】

ロールス・ロイス ファントム〈EXTENDED WHEELBASE〉

ボディサイズ:全長5762〈5982〉 全幅2018 全高1646〈1656〉mm
ホイールベース:3552〈3772〉mm
車両重量:2560〈2610〉kg
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:6.75リッター
最高出力:420kW(571ps)/5000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1700rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後5リンク
最高速度:250km/h
0-100km/h加速:5.3〈5.4〉秒
CO2排出量:318〈319〉g/km
燃料消費率:13.9L/100km

 

 

※GENROQ 2017年 12月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2017年 12月号 電子版

※雑誌版は販売終了