無敵を誇った耐久王者・ポルシェ919ハイブリッド。強さの秘密はどこにあったのか?【Playback GENROQ 2018】

公開日 : 2020/12/18 17:55 最終更新日 : 2020/12/18 17:55

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ポルシェ919ハイブリッドのフロントスタイル

Porsche 919Hybrid

ポルシェ919ハイブリッド

 

 

耐久の王者の秘密

 

ル・マンを3年連続で制覇した919ハイブリッドの圧倒的な強さは記憶に新しい。このマシンで培った多くのテクノロジーが、近いうちにポルシェの市販モデルに継承されるのは間違いない。919ハイブリッドの速さ、そのポイントを探る。

 

ポルシェ919ハイブリッドのレースシーン

2015年から2017年のル・マン24時間レースを制したポルシェ919ハイブリッド。アウディやトヨタとの激闘は未だ記憶に新しい。

 

ル・マンを3連覇した名車・ポルシェ919ハイブリッドの誕生

 

ヴァイザッハ研究開発センターの一角に、周辺の村の名からとられた「フラハト」と呼ばれる区域がある。ここにモータースポーツの開発部門があり、ポルシェ919ハイブリッドが開発されていた。ポルシェは2014年から17年までWEC(FIA世界耐久選手権)に参戦。シリーズのハイライトであるル・マン24時間レースを15年から17年まで3年連続で制し、歴代最多の優勝回数を19に伸ばした。

 

18年9月、ポルシェは秘中の秘だった919ハイブリッドの開発拠点に、ついに報道陣を招き入れた。それと同時に、耐久レースで頂点に立つために取り組んだ技術の全貌をつまびらかにしたのだ。

 

「開発の最初の段階で採用したコンセプトが正しかった。そのことが4年間の参戦を通じて証明された」とエンジン担当のエンジニアは語る。

 

ポルシェ919ハイブリッドのレースシーン

ダウンサイジングターボエンジンとリチウムイオンバッテリーを用いたハイブリッドシステムは、後にライバルたちがこぞって採用するなど、ポルシェの先見の明が919ハイブリッドから窺える。

 

ライバルも追随したハイブリッドシステムを採用

 

そのコンセプトとは、2.0リッターV型4気筒の過給ダウンサイジングエンジンをベースとしたハイブリッドシステムである。ディーゼルエンジンをベースとしたアウディは別にして、競合するトヨタは3.4〜3.7リッターV8の自然吸気エンジンを選択した。ところが、ポルシェに太刀打ちできないと知るや、16年に2.4リッターV6ターボに切り替えた。

 

電動化技術の点でも、ポルシェは最初から正しい選択をしていた。アウディは電動フライホイール、トヨタはキャパシタを選んだ一方で、ポルシェは参戦当初からリチウムイオンバッテリーを選択。しかしアウディもトヨタも最終的にはリチウムイオンバッテリーに切り替えている。だがポルシェはバッテリー技術を着実に進化させ、17年仕様では参戦当初に比べて11kg軽く、75%の容積にまで小型軽量化していたのだ。

 

919ハイブリッドの開発を通じて蓄積された電動化技術は、今後の市販車に活かされていくことになる。919ハイブリッドの技術的ハイライトを、5つの項目に着目して解説したい。

 

ポルシェ919ハイブリッドのエンジン

2.0リッターV4ターボエンジンは500ps超を発生。熱効率は44%と高い数値を記録している。小さく軽いユニットに仕上げることで、ハイブリッドシステムへの比重を高めるのが狙いだ。

 

ENGINE

熱効率44%以上のV4ターボ

 

「開発の早い段階で、小さなエンジンにすることにした」とエンジン開発担当者。空力性能を考えた場合、エンジンはできるだけ小さいほうがいい。また、エンジンを小さく軽くすることができれば、ハイブリッドシステムに振り向けられる自由度が高まる。そうした理由などから、ポルシェは2.0リッターV4直噴ターボを選択した。

 

構造的には、水平対向4気筒を90度の角度に仕立てたユニットである。V型エンジンは向かい合う2つのシリンダーがクランクピンを共有するが、919のV4は水平対向エンジンと同様に気筒ごとに独立したクランクピンを持つ。500ps以上のパワーを受け止めるのに、クランクピンを共有したのでは強度がもたないからだ。最大熱効率は44%以上に達した。

 

ポルシェ919ハイブリッドのエアロダイナミクス

WECは世界中のサーキットを転戦するシリーズだが、ポルシェはル・マンが行われるサルトサーキットを重視したエアロダイナミクス性能を919ハイブリッドに投入した。

 

AERO DYNAMICS

ル・マンを重視して空力を開発

 

WECはシリーズのハイライトであるル・マン24時間以外に、シルバーストンやFSWなどの常設サーキットで6時間耐久レースを行う。ポルシェはル・マンを重視してすべての開発を行った。空力も例外ではなく、「リソースの8割はル・マンに振り向けた」と担当者は証言。

 

直線が占める割合の大きいル・マンでは、ドラッグ(空気抵抗)を減らして最高速を稼ぐのが王道だ。写真は2014年仕様の50%風洞モデル。2015年からはF1ウィリアムズの風洞を施設借りし、60%風洞モデルで開発を行った。最終的にはヴァイザッハにある実車風洞で効果を確認するのが手順だ。

 

ポルシェ919ハイブリッドの軽量性能

919ハイブリッドの印象的なフロンマスクを形成するヘッドライトは、ユニット内にLEDを12個収めている。カーボン素材を用い、その重量は僅か1kgに過ぎない。

 

WEIGHT REDUCTION

ヘッドライトはカーボン製で重量1kg

 

2016年仕様から投入したヘッドライトのリフレクターは、ミラー処理が施されているが素材はカーボンファイバー製だ。1450m先まで照射する12個のLEDを収めるサイズでありながら、重量はわずか1kg。

 

そしてステアリングホイールは、人間工学と軽量化の観点からシーズンごとに進化した。2014年のステアリングは1440gだったが、変速パドルをカーボンファイバー製にした2017年仕様は1260g。車両を構成するすべての部品に対して徹底的な軽量化が施された。

 

ポルシェ919ハイブリッドの回生システム

LMP1のレギュレーションでは、運動エネルギーと熱エネルギーを回生し用いることができた。919ハイブリッドはふたつの回生エネルギーを積極的に活用している。

 

HEAT RECOVERY

回生エネルギーの40%を排気熱が負担

 

919ハイブリッドが参戦した最上位カテゴリー(LMP1)では、減速時に運動エネルギーを回生する運動エネルギー回生システムに加え、排気が持つエネルギーを電気エネルギーに変換する熱エネルギー回生システムを選択することが可能だった。ポルシェは両システムを採用した唯一のマニュファクチャラーである。

 

長いストレートで全開走行している際、排気の約50%はターボチャージャーで使い、残りは捨てられる。その残りの50%を活用する発想。軽量高効率のターボとパラレルに配置された熱エネルギー回生システムは、タービン(最高回転数12万rpm)と最高出力40kWのジェネレーターで構成。減速時に作動する運動エネルギー回生システムは、ごく短時間に大きなエネルギーを発生させる。

 

一方、熱エネルギー回生システムは比較的小さな出力をゆっくり発生させるのが特徴。ル・マンで回生した総エネルギーのうち、約40%は熱エネルギー回生システムが負担した。

 

ポルシェ919ハイブリッドのハイブリッドシステム

フロントアクスルの駆動と回生を担うMGU(モーター/ジェネレーターユニット)は、駆動時に300kWを発生。僅か25kgと軽量なのも大きな特徴だ。

 

HYBRID SYSTEM

軽量かつ高出力のMGU

 

919ハイブリッドの運動エネルギー回生システムは、フロントに搭載するモーター/ジェネレーターユニット(MGU)とリチウムイオンバッテリー、電気の変換や制御を行うコントロールユニット(バッテリーケースと一体)で構成される。写真奥側に見えるのが熱エネルギー回生システム。エンジンでリヤを駆動しMGUでフロントを駆動するため、MGUの駆動時は4WDになる。

 

モノコック前端に搭載されたMGUは駆動時に300kW(レギュレーションで規定)、回生時に380kWの大出力を発生。それでいて重量は25kg。つまり、軽量かつ高出力なのだ。919の開発を通じて蓄積した専門知識は、2019年から参戦するフォーミュラEや量産電動化モデルに活かされることになる。

 

 

REPORT/世良耕太(Kota SERA)
PHOTO/Porsche AG、世良耕太(Kota SERA)

 

 

※GENROQ 2018年 12月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2018年 12月号 電子版

※雑誌版は販売終了