メルセデス・ベンツSクラスに見るエアバッグの進化。最新モデルには「世界初」の機構も投入

公開日 : 2021/01/04 06:30 最終更新日 : 2021/01/04 06:30


1982年製のメルセデス・ベンツ 500SEL

Mercedes-Benz S-Class

メルセデス・ベンツ Sクラス

 

 

W126が採用した革新的パッシブセーフティ

 

メルセデス・ベンツは2020年9月に最新世代のSクラスをワールドプレミアしている。歴代Sクラスがそうであったように、今回のフルモデルチェンジでも他に先駆けて先進技術を惜しみなく投入してきた。

 

「メルセデス・ベンツの頂点」に君臨してきたSクラスは、いつの時代も自動車業界の規範であり、手本であり続けている。たとえばいまから40年前に誕生した2代目Sクラス、W126も革新的なパッシブセーフティ技術を投入していた。

 

Sクラスの衝突テスト

メルセデス・ベンツは、同社を代表するフラッグシップセダンであるSクラス(W126)に、当時最新のパッシブセーフティ機構を投入した。

 

1981年のジュネーブで正式発表

 

W124が搭載していたのは、運転席用エアバッグとシートベルトテンショナー(当時の呼称は「ベルト タイトナー(拘束ベルト)」)。いずれも今では当たり前となった安全装備だが、メルセデス・ベンツはいち早くSクラスへオプション設定した。ちなみに世界へ先駆けてエアバッグを導入したのはGMで、1970年代初頭に法人リース展開していたインパラに搭載している。

 

Sクラスのエアバッグはダイムラー・ベンツAGがボッシュと共同で開発。1981年2月には、まったく新しい安全装備を搭載した100台超のSクラスがラインオフしている。正式に公表されたのは、1981年3月のジュネーブ・ショーであった。Sクラスのセダン、及びクーペのSECに設定された運転席エアバッグ及びシートベルトテンショナーのパッケージオプションは、当時の価格で1525.50ドイツマルクであった。

 

1992年のステアリングエアバッグの内部構造

1992年のステアリングエアバッグの内部構造。折り畳まれた展開部(白い部分)やガス発生装置の構成がよく分かる。

 

ドイツの発明家が基本構造を考案

 

エアバッグシステムは、急ブレーキなどの強烈な制動をセンサーが検知すると、ガス発生装置(インフレータ)を点火させ、窒素ガスがクッション状のファブリック材を風船のように膨らませる。検知から展開、しぼむまでの時間はわずか数ミリ秒。シートベルトと連動し、乗員に与える衝撃をできる限り吸収する。

 

エアバッグの基本的な構想を生み出したのはミュンヘン出身の発明家、ウォルター・リンダラーと言われている。1950年代に、彼は“危険を察知した際に、自動的に膨らむ畳まれた容器”を設計。1951年10月6日に「衝突の際に車内の人間を怪我から守るデバイス」をドイツ特許庁に出願している。

 

1981年2月のアムステルダム・モーターショーで発表した安全機構の説明図

1971年10月にダイムラー・ベンツAGは「乗員のための衝撃保護デバイス」として特許を申請した。

 

ダイムラー・ベンツの特許出願は1971年

 

エアバッグの原理はリンダラーによって詳細に記述されていたが、しかし当時はセンサーや瞬時に起動するガス発生装置といった周辺技術が存在していなかった。弾力があり、かつ引き裂き強度にも優れたマテリアルも。

 

技術や素材不足で留め置かれていたエアバッグのアイデアを、メルセデス・ベンツが本格的に研究し始めたのは1966年のこと。1967年にはガス発生装置のテストをスタートしている。そして1971年10月、ダイムラー・ベンツAGは「乗員のための衝撃保護デバイス」として特許の申請を行っている(パテント No. DE 21 52 902 C2)。

 

W126に1987年にオプション設定された前席用エアバッグ

1988年2月からは前席用エアバッグがW126のオプションメニューに加わった。

 

シートベルトのテンショナーも進化

 

その後の展開は早い。1982年にすべてのメルセデス・ベンツ製乗用車にオプション設定し、1992年には運転席エアバッグをすべてのモデルに標準装備としている。さらにその2年後、運転席及び助手席エアバッグを全乗用車に標準搭載した。その後は後席用やカーテンエアバッグなど、乗員全員の安全を確保するべく様々な安全保護装置を加速度的に充実させていった。

 

また、初期は「ベルト タイトナー」と呼ばれ、1984年以降はシートベルトテンショナーと呼称されるようになったベルト巻き取り機構も、メルセデス・ベンツはごく早い段階から前席の標準装備として採用している。1995年には圧迫力を緩和するフォースリミッター付きへ進化。2002年になると電子制御化され、一旦締め上げたあとに衝突の危険が無いと判断した場合、ベルトを通常のモードに緩める機能を搭載した。

 

ドイツの連邦統計事務所は、1980年に国内の事故による死者が1万5050人に達し、うち6915人が乗用車の乗員であったと発表している。2000年になると事故死者数は7503人に、うち乗用車乗員が4396人に減少。さらに、2009年には全体事故死者数3046人、うち乗用車乗員が1346人にまで少なくなったという。車両1万台あたりの犠牲者数は、1980年の4.5人から、2002年の1.4人、そして2019年の0.5人にまで減った。安全装備がいかに重要であるかを、この数字ひとつが明確に語っている。

 

メルセデス・ベンツの新型Sクラスのエアバッグ

メルセデス・ベンツは、2020年にワールドプレミアした最新のSクラスに「世界初の後席用フロントエアバッグ」を採用した。また、仕向地によっては装着が不可能となるが、運転席と助手席の間のセンターエアバッグも導入している。

 

次は「世界初の後席用フロントエアバッグ」

 

エアバッグは年々進化を続けている。1987年のフランクフルト・ショーで登場したシステムはグローブボックス全体を埋めてしまうほどの大きさだったが、のちにどんどん小型化を実現していった。1995年にはEクラス(W210)にサイドエアバッグを導入し、1998年にウィンドウエアバッグ、2001年に頭部/胸部用サイドエアバッグも誕生。2009年にはニーエアバッグを、2013年に腰椎や骨盤を保護するサイドバッグ、ベルトに格納できるコンパクトなベルトエアバッグ、シートクッションエアバッグを投入している。

 

そして、最新のSクラス(W223)には、世界初となる「後席用のフロントエアバッグ」を搭載する。フロントシート背後に格納したエアバッグは箱型に展開。形状をキープするフレーム部分と、頭部を受ける中央のクッション部分に分かれた構造で、後席乗員の安全性を最大限確保する。前席の“常識”となったフロントエアバッグを、後席にも。それはショーファードリブンとして使われることの多いSクラスならではの取り組みであり、常に時代のテクノロジーのショウケースたれ、というSクラスらしい矜持の証明でもある。