今一度「GT」を問う。マクラーレン 570GTとポルシェ911ターボSに見る「GTの解釈」 【Playback GENROQ 2019】

公開日 : 2021/01/18 17:55 最終更新日 : 2021/01/18 17:55

AUTHOR :

ポルシェ911ターボSとマクラーレン 570GTのスタイリング

Porsche 911 Turbo S × McLaren 570GT

ポルシェ911ターボS × マクラーレン 570GT

 

 

GTの解釈

 

GTとスーパースポーツの違いをあえて定義づけるとしたらやはり実用性の有無ということになるだろう。マクラーレンで唯一GTを名乗る570GTとスーパースポーツカーの中でも随一の実用性を誇る911のフラッグシップ、ターボSを乗り比べて、それぞれのGT観に迫ってみることにしよう。

 

マクラーレン 570GTの走行シーン

最高出力570ps/最大トルク600Nmを発生する3.8リッターV8ツインターボを搭載したマクラーレン 570GT。スーパースポーツのパフォーマンスとGTの実用性を兼ね備えたモデルに仕上がっている。

 

「GTとは本来、高性能な乗用車に与えられる名称だ」

 

「グランツーリスモはイタリア語。英語ではグランドツーリング。元来は快適な居住性を備え、高速での長距離走行に適した高性能乗用車を言う。実用車の範疇に入るクルマにもグランドツーリングのイニシャルをとってGTと名付けた高性能モデルがある」

 

これは自動車用語の辞書『大車林』(三栄書房)に掲載されているグランドツーリングの意味である。

 

グランドツーリング、つまりGT。昔からある言葉だが、本来の意味は高性能な乗用車に与えられる名称なのである。乗用車だから居住性にも積載性にも優れる。それでいてスポーツカーのように高性能。1970〜80年代にGTという名を一気に広めたスカイラインなどは、まさにこの定義にピッタリと当てはまるクルマだったと言えるだろう。

 

マクラーレン570GTのラゲッジ

570GTの最大の特徴は、シート背後が収納スペースとなっていることだ。ちょうどエンジンの上部にあたるこのスペースには室内からだけでなく、リヤのハッチを開けて外からアクセスすることもできる。

 

「570GTがGTの名を与えられた所以は、リヤに備えられたラゲッジスペースの存在」

 

だからこそ、マクラーレン 570GTが登場した時には、少し驚いた。いくら技術が進歩して、スーパースポーツカーにも快適性や実用性が備わるようになったとはいえ、ミッドシップのスーパースポーツにGTという名は少々不釣り合いなのではないか、と。マクラーレンのスポーツシリーズである570は、570S、570スパイダー、そして570GTというバリエーションを持つ。このクラスで3種類のボディを展開するのはかなり珍しい。そして570GTがGTの名を与えられた所以は、リヤに備えられたラゲッジスペースの存在である。

 

2つのシートの背後、エンジンの上はレザーで美しく覆われたツーリングデッキと呼ばれるラゲッジスペースとなっており、手荷物を気軽に置くことが可能。さらにリヤガラスは横ヒンジで開閉可能で、外からも荷物を出し入れできるという工夫もなされている。2名で乗るとバッグの置き場にさえ困ってしまうのがミッドシップスポーツ。それを考えれば570GTのこの発想は画期的だ。フロントノーズにもそれなりの広さを持つラゲッジスペースが用意されているので、2〜3泊の旅行もこなすことができるだろう。

 

マクラーレン570GTのシート

前方だけでなく後方の視界にも優れる570GT。パノラミックルーフにより室内は明るい雰囲気に満たされる。

 

「ミッドシップカーのウイークポイントである後方視界も優れている」

 

ただ、その実用性以外はGTというよりも明らかにスーパースポーツカー。ゆったりと長距離をツーリング、ではなく山道のコーナーを気持ち良く走りたい、できればサーキットへ、という気にさせるクルマである。構造体はモノセルIIと呼ばれるカーボンモノコック。この強固なシャシーが生み出す巌のようなボディ剛性が絶妙なドライバーとクルマとの一体感を生み出してくれる。

 

ボディがしっかりしているから、サスペンションもしなやかでよく動く。コーナー手前で減速しながらステアリングを切り込んでいくと、適度なロールとともに素早くヨーが発生する。その一連の動きに過敏さはなく、実に素直で雑味がない。ボディサイズはそれなりにあるのに、まるでひと回り小さなクルマを運転しているかのような感覚に陥るのは、約1500kgという軽量なボディ、そして重心の低さによるところが大きいだろう。

 

そしてこの570GT、視界が非常に良いことも特筆すべき点である。前方はもちろんだが、ミッドシップカーのウイークポイントである後方視界も優れているので街中での運転も苦にならない。これもGTとしては大事な要素だ。

 

ポルシェ911ターボSのインテリア

570GTと比べるとその着座位置も姿勢も、乗降のしやすさも乗用車並みといえる911ターボS。各操作の扱いやすさにも、半世紀以上も第一級のスポーツカーとして君臨してきた歴史を感じる。

 

「911のラインナップの中でもGTと呼ぶに最もふさわしいのはターボS以外にない」

 

マクラーレン 570GTは570ps、600Nmで価格は2810万円。実はこれとほぼ同スペック、同価格のGTがある。そう、ポルシェ911ターボSである。570GTより2気筒少ないが580ps、750Nm、排気量も同じ3.8リッターで価格は2630万円だ。

 

元来、リヤシートと大きなラゲッジスペースを備えた911は実用性に非常に優れているが、そのラインナップの中でもGTと呼ぶに最もふさわしいのはターボS以外にないだろう。低回転から発する図太いトルクとどこまでも伸びていくパワーは、すべてのシチュエーションで無類の扱いやすさと速さを誇る。570GTのような軽快さではなくどっしりとした重厚さを感じさせるステアリングフィールで、高速道路を長距離移動するのにこれほどふさわしいクルマはないとさえ思える。

 

ポルシェ911ターボSのシート

4人乗りという実用性の高さが911の美点。リヤシート後ろにも手荷物を置くスペースがある。

 

「後席が狭いことを気にしないのなら、ファミリーカーとしてだって使えるはず」

 

比類なき直進安定性の高さはAWDのおかげでもある。昔の911は高速になればなるほどフロントの接地感が希薄になり、安心してアクセルを踏み込めなかったが、それはもう完全に過去の話。リヤエンジンという基本スタイルを維持したままで、ここまでスタビリティを高めたヴァイザッハの技術陣には本当に敬服する。たとえ天気が大雨でも安心して超高速クルージングができるのだから、GTとしての資質は世界最高峰だとさえいえるだろう。

 

もちろんサーキットやワインディングも余裕でこなすが、それを重視する人にはGT3やGTSなどが用意されている。この振れ幅の大きさ、バリエーションの豊富さも911が半世紀以上に渡って支持されてきた理由のひとつだ。

 

乗用車とは言えないが、スーパースポーツカーとしては比較的アップライトな着座姿勢や優れた視界は、日常の使用でもまったく不満はない。それこそ後席が狭いことを気にしないのなら、ファミリーカーとしてだって使えるはずである。

 

ポルシェ911ターボSとマクラーレン 570GTの走行シーン

両車ともGTの資質は十分。ただし「純粋なGTの意味から言えば、よりふさわしいのは911ターボSだろう。しかし570GTもミッドシップのスーパースポーツカーとして、これほどの実用性を持つクルマは唯一無二だ」と筆者は評価を下す。

 

「GTという響きにある郷愁のようなロマン。この2台には確かにそれがある」

 

マクラーレン 570GTとポルシェ911ターボS。GTという観点で選んだ2台だが、それぞれの個性には明確な違いがある。純粋なGTの意味から言えば、よりふさわしいのは911ターボSだろう。しかし570GTもミッドシップのスーパースポーツカーとして、これほどの実用性を持つクルマは唯一無二だ。

 

テクノロジーの進化が生んだクルマたちに、いささか古臭いGTの定義を当てはめるのはナンセンスかもしれない。しかし高性能と実用性というGT本来の条件を、この2台は方向性こそ異なれど、確実に満たしている。そしてGTという響きに我々が感じる郷愁のようなロマンも、この2台には確かにあるのだ。

 

 

REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)

 

 

【SPECIFICATIONS】

マクラーレン 570GT

ボディサイズ:全長4530 全幅2095(ミラー含む) 全高1202mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1498kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570ps)/7500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/5000-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前225/35R19 後285/35/R20
最高速度:328km/h
車両本体価格:2810万円

 

ポルシェ911ターボS

ボディサイズ:全長4507 全幅1880 全高1297mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1600kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3800cc
最高出力:427kW(580ps)/6750rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/2250-4000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR20
最高速度:330km/h
車両本体価格:2630万円

 

 

※GENROQ 2019年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2019年 1月号 電子版

※雑誌版は販売終了