新型Sクラスが起こしたメーターパネル革命。メルセデス・ベンツが紡いできた計器の進化を振り返る
公開日 : 2021/02/21 11:55 最終更新日 : 2021/02/21 11:55
愛車で一番目にする場所
ドライバーにとって愛車で一番よく目にする場所は、何はさておきメーターパネルではないだろうか。対向車や障害物、進行方向といった膨大な情報量を処理しながらも、運転中のドライバーは計器を睨み、速度や車両のコンディションを常にチェックしなければならない。だからこそ、メーターパネルには高い視認性と可読性が求められる。
クルマにとって必要不可欠な重要部品であるメーターパネルの歴史を、ガソリン自動車を世界で初めて作ったメルセデス・ベンツの年譜に沿って振り返ってみたい。
世界初のガソリン自動車の速度計は「16km/h」が上限
カール・ベンツが1886年に作った世界初のガソリン自動車「パテント モトールヴァーゲン」には、すでに速度計が装着されていた。その数十年前には、すでに蒸気機関車が100km/hの壁を超えていたものの、パテント モトールヴァーゲンの速度計に刻まれた最高速度は「16km/h」。ガソリン自動車の最高速度は歩くスピードの倍程度だったのである。ちなみに当時、自動車の制限速度を定めた法律は存在しなかった。
1909年には、ドイツ国内市街地の最高速度が15km/h(これは馬の早足に合わせたものだったとか)に制限されている。ドライバーは、いよいよ道路や交通状況だけでなく、自車のスピードチェックも必須になった。この時代以降、スピードメーターのないクルマは過去の遺物となったようだ。
横型、縦型の変形メーターも登場
自動車の人気が高まるにつれ、「速いクルマ=良いクルマ」という認識が人々の間に拡散。速度計は、その速さを証明するためのオプション装備となった。1928年に登場した「タイプSS(Super Sport)」には、7.0リッターのスーパーチャージャー付き6気筒エンジンを搭載。オプション装備された速度計には100km/hまでのメモリが刻まれていた。
メーターパネルがドライバーの視界に収まる位置へ設置されるようになったのは、1950年代に入ってから。計器は丸いダイヤル型が大勢を占めていたものの例外もあった。たとえば通称“ポントン”(W180/W128シリーズ。1954年〜1959年生産)では横長の長方形デザインを採用。
“フィンテール”を備えたW111/W112シリーズ(1959年〜1965年生産)は、“体温計”と愛称で呼ばれた垂直デザインのメーターを搭載していた。ちなみに、ドイツ市街地の制限速度など、重要な目盛りをハイライトするようになっている。

メルセデス・ベンツCクラス(W203、2000年〜2008年)のメーターパネル。ステアリングにスイッチを搭載しており、中央インフォメーションディスプレイに様々な情報を切り替え表示できるようになっている。
液晶ディスプレイメーターに起きた“大革命”
自発光式、インフォメーションディスプレイ内蔵など、1990年代に入り一気にメーターパネルの近代化が加速。アナログ計器の時代が第一次メーター時代なら、このあたりが第二次メーター時代といえるかもしれない。そして2010年代後半には、フル液晶ディスプレイを嵌め込んだ“映像型”メーターパネルの採用が飛躍的に増殖している。

2020年に登場したメルセデス・ベンツ新型Sクラス(W223)は、「裸眼で3D」を実現した先進ディスプレイメーターを搭載。特別なメガネなどなくとも、奥行きのある3次元状態で速度計や回転計、各種情報などを視認することができる。
そして2020年、第三次メーター時代ともいえる液晶ディスプレイメーターのトレンドに、さらなる大革命をもたらすクルマが登場した。フルモデルチェンジしたフラッグシップ、Sクラスである。「3Dコクピットディスプレイ」は、特別なメガネの着用なしに、実際の景色と同じような被写界深度を実現。いわゆる「裸眼で3D」を現実のものとした。
AR(拡張現実)や、湾曲する有機ディスプレイなど、これからも先進テクノロジーがもたらすメーター革命は続くだろう。クルマがドライバーの操るものである限り、メーターは永遠に不滅なのだから。
|
|