新型メルセデス・ベンツ Sクラス国内最速試乗! 渡辺慎太郎が実感した「さすがSクラス」な進化をレポート

公開日 : 2021/03/04 17:55 最終更新日 : 2021/03/04 17:55


新型メルセデス・ベンツ Sクラスのフロントビュー

Mercedes-Benz S-Class

メルセデス・ベンツ Sクラス

 

 

ドアハンドルにも宿るメルセデス流儀

 

それらが機能的にも人間工学的にも正しいのかどうかなんて小難しい話はとりあえずいったん横に置いといて、メルセデスの新型Sクラスは走り出す前からこれまでのメルセデスとは異なる体験がいくつもできる。

 

キーを持ったままクルマに近づくと、スッとドアハンドルが現れる。格納式ドアハンドルは空力的に有効なため、ジャガーやレクサスなどがすでに採用しているが、Sクラスのそれはこれまで通りのグリップ式ドアハンドルとなっている点が特徴である。

 

そもそもグリップ式ドアハンドルをいち早く採用したのはメルセデスだった。事故に遭遇したクルマのドアを救助のために外から開ける場合、グリップ式のほうがしっかり握れて力が入るからだ。グリップ式は構造的にサイズが大きいので、出し入れするにはスペース的にも設計的にも決して簡単ではなかったはずだろうけれど、新機構を採用する姿勢と、でも絶対に譲れない部分を掛け合わせたメルセデスらしい象徴的機能だと思った。

 

新型メルセデス・ベンツ Sクラスのフロントビュー

新型メルセデス・ベンツ Sクラスがいよいよ日本へ上陸。早速テストへ連れ出したのは直6ガソリンエンジン+ISG搭載の「S 500 4マティック ロング」である。

 

試乗の“儀式”で気付いた違和感

 

運転席に座って目の前に広がる新しい風景は確かにインパクトがあり、すぐにふたつのスクリーンをあれやこれやと試してみたくなるものの、ここはいったん落ち着いて、いつものようにまずはドライビングポジションの設定から。例によってシートの形状をしたスイッチを触ろうとしたとき、これまでは右ハンドルならステアリングの右下のダッシュボード上に必ずあったヘッドライトのスイッチが、なんとドア側に動いていることに気が付いた。自分の知る限り、ヘッドライトスイッチがドアに置かれたのはメルセデス史上初めてだと思う。

 

気を取り直してシートを動かそうとしたところ、「ん??」となった。見た目には従来通りのシートスイッチが静電式に変更されていたのである。つまり、もはや機械式ではないのでスイッチそのものは基本的にほとんど動かない。指で触れた部分のセンサーが反応してシートが動く仕組みである。初体験だったこともありこれがどうにもうまくいかず、シートポジションを決めるのにたいそう時間がかかってしまった。従来のスイッチであればたいていは数秒もかからずベストポジションが見つけられたのに。

 

新型メルセデス・ベンツ Sクラスのコクピット

今回テストした新型Sクラスは、話題のフルカラーARヘッドアップディスプレイと、「裸眼で3D」を実現した「3Dコックピットディスプレイ」を搭載していた。SFの世界に最も近づいたクルマ、それが新型Sクラスといえるかも。

 

仮想世界と現実を重ねるヘッドアップディスプレイ

 

エンジンスタートボタンを押すと、エンジンがかかりシステムが立ち上がってふたつの液晶にメーターと地図が表示されるとともに、フロントウインドウにはヘッドアップディスプレイが浮かび上がった。AR(拡張現実=実際の風景にバーチャルな視覚情報を重ねて表示する)を初めて量産車に搭載したことで話題となったが、個人的にはその表示方法に好感を持った。

 

ヘッドアップディスプレイ自体はいまや軽自動車にも装備されるほど普及している機能だが、画面がこれまでよりも視覚的に遠くに投影されているのがそれらとの決定的な相違点。これは感覚的に、10m先に77インチサイズの画面を見ているのとほぼ同じだという。プロジェクターの技術を応用したDMD(デジタル・ミラー・デバイス)と呼ばれるユニットが130万画素の高精細画像を映し出す仕組みで、正直に言うとヘッドアップディスプレイがあまり好きではない自分でも、これなら常時ONでも邪魔にならないと感じた。

 

ただ、心配性なタチなので、ダッシュボード上にぽっかりと大きく口を開いたユニット部分を見ると、「きっとたくさんホコリやゴミがここに溜まって掃除が大変そうだなあ」と思ってしまったが、Sクラスのオーナーは自分で洗車なんかしないのかと我に返った。

 

新型メルセデス・ベンツ Sクラスのサイドビュー

新型メルセデス・ベンツ Sクラスの前面投影面積は先代より拡大しているのにも関わらず、ラグジュアリーセダンセグメントでは最高レベルのCd値0.22を実現している。

 

ISGの仕組みをおさらいすると

 

スロットルペダルを踏んでスルスルと滑らかに加速し始めた試乗車はS 500 4MATIC longで、2996ccの直列6気筒ターボを搭載しているが、このエンジンはISG仕様である。ISGはインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターの略で、スターター(=モーター)とジェネレーター(=回生充電)をひとつにしてエンジンとトランスミッションの間に置き、モーターは駆動力のサポートを行いジェネレーターは48Vバッテリーへの充電を行う。

 

一般的なエンジンがベルトとプーリーによって稼働させているウォーターポンプやエアコンのコンプレッサーといった補機類はすべて電動化されているので、ISG仕様にベルトは存在しない(=エンジンの全長が抑えられる)。加えてこのパワートレインには、電動式のスーパーチャージャーも装着されている。ボルグワーナー製のこの過給機は、ターボの過給圧が十分になるまでの間を補う。つまり、スロットルペダルを踏むとまずはモーターが車両を動かし、48Vで稼働するスーパーチャージャーが直ちに過給、ターボが仕事を始めるとスーパーチャージャーは静かにフェードアウトするというロジックである。

 

新型メルセデス・ベンツSクラスのエンジンコンパートメント

テスト車の「S 500」は、3.0リッター直列6気筒ガソリンターボユニットにISG+48Vシステムを搭載。とにかく振動が少なくスムーズで、直6エンジンの良さをこれでもかというほど実感できるユニットである。

 

“チョクロク”の良さを痛感

 

なんでこんな面倒なことをするのか、理由はおそらくふたつ。ひとつ目は電動化対策である。EVモードはないにしろ、モーターが駆動力をアシストするので「電動化以外の車両の販売禁止」という規制は逃れられると踏んでいるのだろう。もうひとつは、せっかくの「チョクロク」のよさを引き出したいという狙い。ご存知のように完全バランスとされているチョクロクはその滑らかな回転フィールが魅力だが、全域でトルクが細い弱みもある。モーターとターボだけではどうしてもそれぞれのトルクの中間地点に“谷”ができてしまうので、これをスーパーチャージャで埋めて平らにしたのである。

 

運転していると、モーターだのスーパーチャージャーだのターボだのの助けはほとんど分からない。トルクがたっぷりな出来の良いチョクロクを回している感覚である。巷では、せっかく新型Sクラスが登場したのに「V8待ち」で買い控えも起きているそうだが、個人的には動力性能的にもフィーリング的にもS 500でまったく申し分ない。

 

新型メルセデス・ベンツSクラスのフロントビュー

新型メルセデス・ベンツ Sクラスをクローズドコースで試したところ、高速域での安定性がさらに高まったことを実感。車体はぴたりと路面に張り付いてどしりと安定感が増す。このクルマならロングドライブでも喜んで運転席に座りたくなる。

 

サスペンションのしつけに見る変化

 

サスペンションはフロントが4リンク、リヤがマルチリンクで、空気ばねと電制ダンパーを組み合わせたエアサスが標準装備となる。このセッティングの方向性が、従来型から変化していた。新型では減衰が旧型よりも速く、特に伸び側を早めに抑えにいく傾向がある。ばね上を常時柔らかく動かす優しい乗り心地が旧型の特徴であったが、新型はばね上の動きを適度に抑制するように感じられた。

 

なので旧型をよく知る人は「ちょっと硬くなった?」と感じるかもしれない(実際にそこまで硬くはなっていない)。それでも全般的に乗り心地はいいし、エアサス特有のやや突っ張った感じも見事に払拭されている。

 

新型メルセデス・ベンツSクラスのARナビゲーションシステム

新型メルセデス・ベンツ SクラスはARナビゲーションシステムも採用。現実の風景にナビゲーション情報が重ねて表示される。(photo=GENROQ Web)

 

どうしてサスペンション・セッティングの方向性を変えたのか、最初はよく分からなかったのだけれど、クローズドのコースを走ってそれがなんとなく分かった。路面の入力に対してその都度スッとばね上の動きを止めにいっていたのが、120km/hを越えた辺りからそれが徐々に収まり、150km/hになるとばね上がほとんど動かずぴたりと路面に張り付くようになったのである。

 

旧型でも高速の安定性は悪くなかったが、ばね上は常に小さくダイアゴナルに動いていたので、高速域でのスタビリティをより重視したのだろうと考えている。加えて、ステアリング操作に対する初期の応答性も上がっている。切り始め直後にピークがあってすぐにクルマは反応するが、その後はステアリング操作に極めて従順に動くというこれまで通りの所作だった。

 

新型メルセデス・ベンツSクラスのリヤシート

今回借りだした新型Sクラスはロング仕様でショーファードリブンにもうってつけ。ちなみに新型Sクラスは世界初の「後席用のフロントエアバッグ」を搭載。フロントシート背後に格納したエアバッグは箱型に展開。形状をキープするフレーム部分と、頭部を受ける中央のクッション部分に分かれた構造で、後席乗員の安全性を最大限確保する。

 

派手な話題の影に隠れた本当の凄さ

 

静粛性の顕著な向上も新型Sクラスでは際立っている。特に、感覚的には腰から上の部分での静粛性が高い。これはピラーをはじめとするボディの構造部材の中空部分に発泡ウレタンを注入したことや空力を徹底的に見直したことによる風切り音の減少の効果もあるだろう。一方で腰から下、つまりフロア付近の微振動は旧型とほぼ同じようなレベルで残存していた。せっかく室内のNVのレベルがずいぶん下がったのに、ドイツ人は足元の振動はあまり気にしないのだろうかと思ってしまった。

 

新型Sクラスには本が1冊書けるくらいの装備や機能があって、すべてをここでは紹介しきれないので、発表時に書いた関連リンク先を参考にしてください。有機ELディスプレイを使った新しいMMIやARナビやMBUXなど、目新しい装備に目が行きがちな新型Sクラスだが、個人的にはこのクルマは過渡期であり、彼らが目指す高級セダンの新定義を掲げるSクラスは次期モデルだと思っている。動力性能も操縦性も快適性もおしなべて向上しているけれど、いずれもジャンプアップの幅は思っていたよりも小さいし、じきに登場するEQSとの差別化などが次期型にはきっと盛り込まれると思うからだ。

 

新型メルセデス・ベンツSクラスのリヤビュー

走る、曲がる、止まる。基本中の基本ともいえる性能が徹底的に熟成されていたのが、新型Sクラスに乗って一番感心したポイント。ADASやコネクティビティ、アメニティの進化にばかりスポットライトが当たりがちだが、この部分こそ最も重要な部分と考える。

 

スロットルペダルを踏み込んだときのちょうどいい踏力とパワーデリバリーとのリニアリティや、ブレーキペダルのコントロール性とじわじわしっかり効いてくる制動力など、クルマの基本的性能が実はもの凄く熟成されている。こういう見えないけれど重要な部分は決して手を抜かないところに、自分なんかは「さすがメルセデス、さすがSクラス」と思ってしまった。

 

 

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

PHOTO/北畠主税(Chikara KITABATAKE)、Mercedes-Benz、GENROQ Web

 

 

【SPECIFICATIONS】

メルセデス・ベンツ S 500 4マティック ロング

ボディスペック:全長5320 全幅1930 全高1505mm

ホイールベース:3215mm

トレッド:前1645 後1670

車両重量:2250kg

エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ(ISG搭載)

総排気量:2996cc

ボア×ストローク:83.0×92.3mm

最高出力:320kW(435ps)/6100rpm

最大トルク:520Nm(53.0kgm)/1800-5800rpm

トランスミッション:9速AT

駆動方式:AWD

サスペンション:前4リンク 後マルチリンク

ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤ&ホイール:前後255/50R18(テスト車=前255/40R20 後285/35R20)

車両価格:1724万円(テスト車=2002万8000円)

 

 

【問い合わせ】

メルセデスコール

TEL 0120-190-610

 

 

【関連リンク】

・メルセデス・ベンツ公式サイト

https://www.mercedes-benz.co.jp/

 

 

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