自動車メーカーが電動化を急ぐ理由とは。EVシフトが加速する背景を小川フミオが解説

公開日 : 2021/05/26 11:55 最終更新日 : 2021/05/26 11:55

フォルクスワーゲン MEBのプロダクトレンジイメージ

ジャガーはピュアEVのトップブランドへ

 

ジャガーがピュアEV専門ブランドになる、という衝撃的なニュースが、2021年5月21日に発表されたのは既報のとおり。先駆けて4月23日には、ホンダが2040年にはBEV(バッテリー駆動のピュアEV)とFCV(水素燃料車)の販売比率を100パーセントにすると発表して驚かされたばかりだった。自動車界は早いスピードで、電動化を進めている。

 

オンラインでジャーナリスト向けに行われたジャガー ランドローバーの発表には、同社を率いるティエリー・ボロレCEOが登場。「ジャガーの戦略はこれから全面的に見直し、開発途中の次期XJのプログラムは中止し、ジャガーはラグジュアリーEVのトップブランドへと方向転換する」と発言して話題を呼んだ。

 

ジャガーのEV化戦略イメージ

ジャガーは2025年を目処にピュアEVのラグジュアリーブランドとして生まれ変わると宣言。ランドローバーにも今後5年間で6車種の電気自動車を投入するという。

 

ニッサンやホンダ、レクサスなど国産BEVも増殖中

 

ほかにも、ラインナップの電動化は多くのメーカーが謳っている。読者のかたも、記事で目にする機会が増えていると思う。先触れとして、日本の市場にもBEVが多く投入されるようになってきた。

 

BEVはスムーズな加速性ゆえ日常での使い勝手にすぐれる。燃費がつい気になってアクセルペダルをがばっと踏み込むのをためらってしまう、なんていうひとにとって、瞬間的に最大トルクを発生するBEVの性能ぶりは気持ちよいだけでなく、心情的にも許容できるものだろう。

 

日本では、ニッサンが「リーフ」を2010年に早々と導入。現在はさらにエンジンで駆動用バッテリーに充電するレンジエクステンダーの「キックス」と「ノート」も追加している。レクサスは「UX 300e」、ホンダは「Honda e」、マツダは「MX-30 EV MODEL」、さらにトヨタが水素を使う「MIRAI」と、ピュアEVが増えている。

 

レクサスの電動車ラインナップ

レクサスがブランド初の電気自動車市販モデルとして発売した「UX300e」(写真中央)。2022年にはまったく新しいBEV専用車を導入するという。レクサスは2021年5月時点で、「電動車」の世界累計販売台数が200万台を記録したと発表している。

 

フェラーリやマクラーレンは高性能HVを投入

 

輸入車も熱心だ。「BMW i3」と「i8」にはじまり、「テスラ」の各モデル、「ジャガーIペイス」「メルセデス・ベンツ EQC」「アウディe-tron」と続く。さらにフランスの「プジョー e-208」及びSUVの「e-2008」が日本の路上を走っている。

 

一方、「フェラーリ SF90」や「マクラーレン アルトゥーラ」といったハイブリッドスーパーカーもすでに発表されており、この流れは他のブランドにも広がっていくはずだ。電動モーターにより、たとえばSF90では574kW(780ps)ものパワーを可能にしている。

 

マクラーレン アルトゥーラのサイドビュー

マクラーレンは限定モデルの「P1」と「スピードテール」で培ったHV技術を活かし、初の量産PHEV「アルトゥーラ」を2021年2月に発表した。

 

EVシフトの旗振り役は

 

なぜ自動車メーカーはラインナップの電動化(クルマのEV化)に舵を切るようになったのだろう。たんにパワーアップのためだろうか。

 

大きな理由は、投資家の存在だ。証券会社のホームページをのぞいてもらえば、「ESG投資」を勧める文言がすぐ目につくはず。環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)を重視した経営を行う企業を評価し、株式や債券などで投資を行うこと。2020年は過去最高の設定本数が話題になった。

 

企業が環境対策に使う資金を調達するためのグリーンボンド(環境債)の国内発行額は「2020年に過去最高」(日経新聞ウェブ版2021年5月22日付)とされている。

 

もうひとつ知られているのは、「クライメートアクション100+(CA100+)」だ。世界の機関投資家による気候変動イニシアティブが結集したグローバルイニシアティブ。投資先の企業が悪影響を受けないように(投資家に損させないために)気候変動のリスクを下げる活動をうながすものである。

 

気候変動による財務リスクが高い企業として、上記CA100+に選定されている企業のなかには、トヨタ自動車、日産自動車(ニッサン)、ホンダ(本田技研工業)、スズキといった日本の自動車メーカーも含まれている。

ニッサン リーフのフロントビュー

日本の電気自動車の先駆者といえばニッサンの「リーフ」。現行は2世代目(写真)で、初代モデルの誕生から10年、グローバルで累計52万台、国内で14万台のセールスを記録している。

 

グーグルも目指す「カーボンニュートラル」

 

そしていま、各国の自動車メーカーがEVに力を入れているのは、世の動きが脱炭素化へと大きく動いているからだ。たとえばグーグルのような企業ですら、カーボンニュートラルを目標としている。

 

フォルクスワーゲングループは、「The Way To Zero」のタイトルの下、このさきの脱炭素化のための取り組みをオンラインで発表(既報)。ラルフ・ブランドシュテッターCEOが画面に姿を見せ、「これが生き残り戦略」とした。

 

2020年の「ID.3」にはじまる新しいMEBプラットフォームを用いたBEVファミリー(「ID.4」や「ID. BUZZ」)を充実させるだけでなく、リサイクル率が90パーセントを超えるというソリッドステートバッテリーを開発し自社工場で生産する計画や、工場のゼロエミッション(CO2排出量ゼロ)化を発表したばかり。

 

さらにパートナー企業をも巻き込んでの温暖効果ガスの排出量をゼロにしていく姿勢も、投資に値する企業かどうかの基準とされる。さきのグーグルも同様の動きを発表。「サステナビリティこそが企業が成功するためのカギとなる」とは前出のブランドシュテッターCEOの言葉だ。

 

マツダ MX-30 EV MODELのフロントビュー

マツダは2021年1月28日に初の量産電気自動車「MX-30 EV MODEL」を発売した。年間で国内500台の販売を計画している。

 

メーカーをEV時代へ向わせる真の“原動力”は

 

はたしてここで書いてきた動きの底流にあるのは、私たち消費者の意識だ。じつは自動車メーカーのEVシフトは私たちが決めたことともいえる。持続可能な社会に興味を持つひとが増えてきていて、これを無視する政府と投資家は長く続かないと(欧米では)いわれている。

 

欧州には、内燃機関搭載車の走行を禁止する都市が出てきている。背景にあるのは、市民の意識。European Federation for Transport and Environment(輸送機関が環境に与えるダメージをコントロールするよう政策に働きかけるために1990年に設立された欧州運輸環境連盟)の調査では、2030年までにICE(エンジン車)の市街地での走行を禁止することに、6割以上の調査対象者が賛成している。

 

「コロナ対策で2020年にドイツ政府が経済を回すために金融ショックの時と同じように新車購入サポートを導入しようとした際、国民から猛烈な反対を受けてすぐに計画を変更しました」

 

フェラーリ SF90 スパイダーの俯瞰目ビュー

フェラーリ初のPHEVとして登場した「SF90 ストラダーレ」に続き、“跳ね馬初のPHEVスパイダー”SF90 スパイダーも登場。システム出力1000馬力超えという圧倒的パフォーマンスを実現している。

 

自動車メーカーの知人が教えてくれたことだ。日本の企業は脱炭素化に消極的とみられており、これまでを「失われた10年」とする論調もあるぐらいだ。でも、ユーザーの意識はどうだろうか。

 

企業活動全体でのカーボンニュートラル化にむけて、これからやるべきことは多い。ひとつはエネルギーの調達。フォルクスワーゲングループは、すでに太陽光発電など、自然エネルギーを使った工場を稼働させている。日本企業も、再生エネルギー使用の取り組みで評価される時代が来ているのだ。

 

ほかにも、たとえば植林などの環境活動も、SDGs(持続可能な開発目標)のために重要だろう。EVの背景には、大きな課題が残されている。でもまあ、充電インフラなどの問題はあるものの、EV、悪くない。それが私の感想。悲観せずに、地球にいいこと、やっていこうではありませんか。

 

 

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)

 

 

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