ロールス・ロイスのコーチビルドという極上の世界。大富豪をうならせる「愛車のオートクチュール」を振り返る 【画像ギャラリー】

公開日 : 2021/05/30 13:55 最終更新日 : 2021/05/30 13:55

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤビュー

すべてのロールス・ロイスが“特注”

 

ロールス・ロイス モーター カーズは2021年5月27日、伝統の「コーチビルド」制度を現代に蘇らせ、新たなビジネスの柱に据えると発表。グッドウッド本社にコーチビルド部門を設置し、時間やコストを度外視した、究極の工業製品としてのロールス・ロイスを送り出していく。その一例として、4年を費やして製作した「ボート・テイル」の姿を公開した。

 

ロールス・ロイスはこれまでにも、「ビスポーク」というメニュープログラムを通じて、エルメスとのコラボレーションや純金のダッシュボードなど、ありとあらゆる特別仕様を提供してきた。ロールス・ロイスを買う顧客のほとんどはビスポークを望むといい、2021年第1四半期にグッドウッドで生産されたロールス・ロイスにいたっては、すべての車両がビスポーク仕様であったという。

 

ロールス・ロイス「ボート・テイル」のフロントビュー

ロールス・ロイスが2021年5月27日に公開した「ボート・テイル」。同社は現代にコーチビルド制度を蘇らせるべく、グッドウッドに新部門を設立した。コーチビルド部門は今後、ロールス・ロイスのビジネスにおける柱のひとつとなる。

 

ビスポークのさらに向こう側へ

 

今回導入するコーチビルド制度は、そのビスポークの世界をさらにもう一歩押し進めたプログラムで、ロールス・ロイスそのものをほとんど一から作り上げてしまうほどの内容。まさしく、デザイナーが顧客のために完全オリジナルの衣装をデザインする“オートクチュール”に近い。

 

同社のコーチビルドデザイン責任者、アレックス・イネスは次のように説明している。

 

「コーチビルドには、一般の制約を超えた自由があります。通常、ロールス・ロイスのビスポークには、キャンバスとしての当然の限界点(自然の天井)があります。しかし、ロールス・ロイス コーチビルドではその限界を打ち破り、コーチビルドならではの自由な表現力を活かし、パトロンであるお客様と一緒になってコンセプトを直接形にします」

 

ロールス・ロイス「ボート・テイル」の製作プロセス

ロールス・ロイス ボート・テイルは現行ファントムから導入したオールアルミニウム製スペースフレーム構造がベース。とはいえ、原寸大のクレイモデルから手仕上げのアルミボディまで、ほぼワンオフモデルとしてイチから再構築されている。

 

かつては「“中身”はメーカー、“衣装”はコーチビルダー」が常識

 

自動車の黎明期、メーカーの主な仕事は“中身”、つまりシャシー部分を製造することだった。完成したシャシーはその後にボディの架装を専門に行なうコーチビルダーへと送りこまれ、顧客の好みに応じた“衣装”が与えられるのが常道だった。

 

コーチビルダーの一部はかつて馬車の架装を生業としていた人々であり、その仕事方法も馬車製作のメソッドに沿ったものだった。しかし、馬車とは違い、時速30〜40マイル(約48〜64km/h)の高速で走り続ける自動車にとって、これまでの“衣装”では性能面に問題があることが判明。やがて、コーチビルドの世界では、より科学的な視点での進化が求められていくようになる。

 

ロールス・ロイス「ボート・テイル」の製作プロセス

ロールス・ロイス ボート・テイルのアルミボディは職人によるハンドメイド。ホワイトボディの製作だけで8ヵ月を費やしている。

 

それでもコーチビルドにこだわったロールス・ロイス

 

1920年代になると、自動車を量産するメーカーはボディの架装も自社内で行なうように変化していった。しかし、ロールス・ロイスのようなラグジュアリーカーメーカーは、依然としてコーチワークを専門業者へアウトソーシングする業態をキープ。顧客も気に入りのコーチビルダーへシャシーを持ち込んでは、自分好みに仕立てあげてもらうのが当たり前であった。そう、ロンドンのサヴィル・ロウにスーツをあつらえてもらったり、パリのクチュールでドレスをオーダーするのと同じように。

 

しかし木製フレーム構造からスチール製フレーム構造へ、セミモノコック構造へと自動車の骨格は時代とともに変化していき、コーチビルダーにシャシーを持ち込むという旧来通りの商いは段々と消えていった。ところが、ロールス・ロイスだけは別体式フレームをもつファントムVIを(少数ではあるが)1993年まで製造。H.J.マリナー パークウォードにコーチワークを委託してきた。

 

そんなロールス・ロイス伝統のコーチビルドの歴史を振り返るとともに、現代に復活した最新のコーチビルドの世界を覗いてみたい。

 

ロールス・ロイス 40/50HP ファントム I ブロアム ド ヴィルの外観

ロールス・ロイス 40/50HP ファントム I ブロアム ド ヴィルのサイドビュー。

 

40/50HP Phantom I Brougham De Ville(1926)

40/50HP ファントム I ブロアム ド ヴィル(1926年)

 

ヴェルサイユ宮殿をイメージしたロココ調キャビン

 

“The Phantom Of Love”の愛称でも知られる1台。ウルヴァーハンプトンのチャールズ・クラーク&サン社が製作を担当した。注文主は、ロンドン在住のフランス系アメリカ人実業家、ウォーレン・ガスケ。愛妻モードへの贈り物として購入したという。

 

ガスケが希望したのは、ヴェルサイユ宮殿のサロンを思わせる、ロココ調の仕上げ。結果、ファントムのキャビンは磨き込まれたマホガニーのウッドパネルやオービュッソンのタペストリー、マリー・アントワネットの輿(こし)をイメージした天井などで彩られた。キャビンを前後に仕切るパーティション上には、オルモル細工(真鍮などに金めっきをあしらったもの)のクロックが装着されている。

 

 

ロールス・ロイス 17EXのディティール

ロールス・ロイス 17EXのサイドビュー。

 

17EX(1928)

 

軽さと空力を追求した美しき実験車

 

1925年、ヘンリー・ロイスは、一部のコーチワークのサイズや重量がロールス・ロイスのパフォーマンスに負荷を与えていることを懸念。軽量で流線形のオープンボディを与えた、10EXと呼ぶ実験的なファントムを作り上げた。

 

5番目のモデル17EXは、1928年1月に完成。車速は90マイル(約145km/h)超に達した。しかしいくら実験車とはいえ、ロールス・ロイスに相応しいクルマでなければならないという強い思いのもと、車両の内外は美しいブルーにまとめられている。

 

 

ロールス・ロイス ファントム II コンチネンタル ドロップヘッド クーペのリヤビュー

ロールス・ロイス ファントム II コンチネンタル ドロップヘッド クーペのリヤビュー。

 

Phantom II Continental Drophead Coupe(1934)

ファントム II コンチネンタル ドロップヘッド クーペ(1934年)

 

現代の「ボート・テイル」に繋がる造形美

 

A F マクニールがデザインし、ガーニー・ナッティング & Coがロンドンで製作した1台。最新の「ボート・テイル」に通じるコーチワークを後ろ姿に見ることができる。ニス仕上げのリヤデッキが、鋭く後方にエッジを突き出している見事な造形は目を見張るものがある。

 

 

ロールス・ロイス ファントム VI リムジンの正面ビュー

ロールス・ロイス ファントム VI リムジンのフロントビュー。

 

Phantom VI limousine(1972)

ファントム VI リムジン(1972年)

 

ロールス・ロイスのボンネットで昼食を

 

別体式フレームをもつ最後のロールス・ロイス、ファントム VIは、コーチビルダーにとっても腕を存分にふるうことができた最後の素材であった。写真はH.J. マリナー パークウォードがデザインと製作を担当。最先端のサウンドシステムやテレビを搭載し、ワインやピクニック用フードを収納できる冷蔵庫を用意。さらに、美しい花瓶やウォールナット製のピクニックテーブルも装備していた。一連の備品はトランク内にしまっておくことが可能で、景色の良い場所についたらフロントフェンダーにテーブルセットを整え、フロントのオーバーライダー部にシートを装着すればランチの準備は完成、となる。

 

 

ロールス・ロイス スウェプテイルの俯瞰目ビュー

ロールス・ロイス スウェプテイルのリヤビュー。

 

Sweptail(2017)

スウェプテイル(2017年)

 

航空機の尾翼にも似たシャープなテール

 

2013年、ロールス・ロイスは「2シーターのクーペをコーチビルドして欲しい」というオーダーを受ける。それから4年の歳月をかけて完成したのがこのスウェプテイル。巨大なパノラミックグラスルーフから車両後方に向けて絞りこまれていくルーフライン、そしてボディ下部の天に向けて上昇していくラインがあいまって、いまにも飛翔しそうに見える独特のリヤビューが誕生した。このスウェプテイルこそが“現代のコーチビルド”の起点といえる。

 

 

ロールス・ロイス「ボート・テイル」のリヤビュー

ロールス・ロイス ボート・テイルのリヤビュー。

 

Boat Tail(2021)

ボート・テイル(2021年)

 

実寸大クレイモデルからアルミボディをハンドビルド

 

ロールス・ロイスのシャシーに、帆船の造形を移植するという手法を、現代的に解釈した一例。3人の顧客の注文により生まれたもので、スウェプテイル同様、4年の歳月を費やしたという。手書きのスケッチからはじまり、実物大のクレイモデルも製作、デジタルリマスターした造形から作った型にアルミを載せて手作業でボディを成形するという、気の遠くなるようなプロセスを経て作り上げられた。このホワイトボディ関連の作業だけでも8ヵ月かかっている。

 

ボート・テイルの大きなプロポーションを支えているのは、現行ファントムで導入したオールアルミニウム製スペースフレーム構造。このアーキテクチャーは、SUVのカリナンや新型セダンのゴーストにも活用されていることから分かるとおり、高い柔軟性をもつ。バルクヘッドやフロア、クロスメンバー、シルパネルなどの位置や長さ、高さが製品によって自在に調整することができるからこそ、ビスポーク以上の加工(=コーチビルド)が可能となるのである。

 

ロールス・ロイス「ボート・テイル」のボヴェ製時計

ロールス・ロイス「ボート・テイル」に“標準装備”するスイス・ボヴェ社製の時計。取り外して腕時計として使用することもできる。

 

蝶の羽根のように開くリヤデッキには、パリのクリストフル社製特注カトラリーを格納。ヴィンテージ・シャンパーニュを適正温度に急速冷却できる冷蔵庫やパラソル、イタリアのプロメモリア社製特注スツールも“標準装備”。スイスのボヴェ(BOVET 1822)がこのクルマのために製作した時計は、車載クロックとして使用できるのはもちろん、取り外して腕時計として装着することもできるようデザインされている。ボート・テイルは公道走行可能な認証取得車両であり、「ロールス・ロイスの静粛性」を厳格な動的テストで確認されたうえで、顧客へと受け渡された。

 

現代に帰ってきたコーチビルドの姿を、製作プロセスの様子とともにじっくり眺めていこう。

 

 

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