フェラーリV8ミッドシップを新旧比較! F8トリブートと488GTBを徹底試乗【Playback GENROQ 2020】

公開日 : 2021/06/21 17:55 最終更新日 : 2021/06/21 17:55

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フェラーリ F8 トリブートと488GTBの走行シーン

FERRARI F8 Tributo × 488GTB

フェラーリ F8 トリブート × 488GTB

 

 

不変の真理

 

458、488と進化を続けてきた現行プラットフォームのV8ミッドシップがついに最終形であるF8 トリブートへと生まれ変わった。その進化がどれくらいのものなのかは、実際に比較してみないとわからない。先代モデルの488GTBと同時に試乗することで、フェラーリ最新V8ミッドシップの実力を明らかにしてみよう。

 

フェラーリ F8 トリブートの走行シーン

フロントもリヤも488に比べるとダイナミックな造形となったF8トリブート。フロントノーズには488ピスタで初採用されたSダクトが開けられる。星型スポークのホイールは前後ともに20インチ。カーボンコンポジットのローターに6ポットのキャリパーを組み合わせる。

 

「進化したスタビリティコントロールが大きな安心感をもたらしてくれる」

 

取材当日は生憎の雨。それもときおり雨脚が強まる本降りだ。720psの最高出力を2本のリヤタイヤで路面に伝えるフェラーリ F8 トリブートをテストするのに心躍るコンディションとはいえないだろう。

 

思い起こせばフィオラノ・サーキットで初めてF8 トリブートを走らせたときもセミウェットだった。ところが、この最新のフェラーリ・ミッドシップスポーツはチョイ濡れのサーキットでこれまでの“跳ね馬”とは別格の安定感を発揮して私を大いに驚かせた。スタビリティコントロールが一段と進化し、滑りやすい路面でのコントロール性が格段に高まったことにも圧倒されたものだ。

 

およそ半年前に体験したそんなことを思い返すうち、心のなかに少しだけ晴れ間が広がった。今回はF8 トリブートと先代の488GTBを乗り比べて2世代にわたるV8ミッドシップ・スポーツの魅力とその進化を解き明かそうという企画である。私はまずF8 トリブートに乗り込むと、路面がたっぷりと湿ったワインディングロードを走り始めた。

 

フェラーリ F8 トリブートのインテリア

インパネの基本的な造形は先代488から受け継がれる。ステアリングのスイッチ類も一部は進化しているが、ローマのようなタッチスイッチは採用されていない。

 

「ステアリングから伝わるフロントの接地感が際立って優れている」

 

コーナーをひとつ2つクリアしただけで、私は心のなかで「やっぱり」とひとりごちた。ステアリングから伝わるフロントの接地感が際立って優れているうえに、その接地状態が安定していて急変することがない。まるでタイヤが強力なダンパーで地面に押しつけられていて、ねっとりと張り付いたまま離れない。そんな印象なのだ。

 

適度に重い操舵力も安心感を強めている。フェラーリのステアリングは全般的に軽めで、私自身も操舵力は軽い方が好みだが、F8 トリブートのステアリングは重いというよりもしっかりとした質量感を備えていてほどよい安定感を生み出してくれる。しかも、切り始めからステアリングゲインがリニアに立ち上がるためにターンインで緊張感を強いられることもない。この辺もドライバーに安心感を与える一因である。

 

フェラーリ F8 トリブートのエンジン

720ps/770Nmを発揮する3.9リッターのV8ツインターボ。ターボでありながらそのサウンドや高回転での伸びの気持ち良さはドライバーに快感をもたらしてくれる。

 

「ウェット路面でこれほど安心して操ることができたフェラーリはF8が初めて」

 

もうひとつ印象的だったのが前述したスタビリティコントロールの進化。ワインディングロードではマネッティーノでウェットモードを選択したが、この状態でもタイヤの横グリップが失われようとすると内輪にブレーキをかけることで進路を修正する機能が作動した。しかも、システムの介入は滑らかでほとんどそうと気づかないほど。後述するように、488GTBではまずエンジン出力を絞って横滑りを防止するので、ドライバーとしては「攻めたくても攻められないもどかしさ」を覚えるが、F8 トリブートはこの点、大きな進化を果たしていた。これは、タイヤが軽い横滑りを起こしてもスピンを防止できるまでにスタビリティコントロールの技術が向上した恩恵だろう。

 

以上のように、F8 トリブートは滑りやすいウエット路面でも優れたロードホールディングを発揮するだけでなく、ステアリングの設定が適切で、しかもスタビリティ・システムが大きく進化しているため、ドライバーに限りない安心感をもたらしてくれる。私が経験した範囲でいえば、ウェット路面でこれほど安心して操ることができたフェラーリはF8 トリブートが初めてである。

 

フェラーリ 488GTBの走行シーン

F8 トリブートに比べるとプレーンな印象の488GTB。それだけに基本的なデザインの美しさを感じることができる。可変エアロデバイスの類は持たない。足元には20インチのタイヤ&ホイールを装備。カーボンコンポジットのブレーキは高い制動力と繊細な操作性を、街中からサーキットまであらゆるステージで実現。

 

「488GTBの印象としてはF8 トリブートと対照的なことが少なくない」

 

続いて488GTBに乗り換える。ドライバーズシートに収まって、F8 トリブートと操作系が変わったとまず意識させられたのはワイパーのコントロールくらい。どちらもステアリング上で操作することには変わりないのだが、488GTBが“押す”と“引く”で動作を切り替えるのに対して、F8 トリブートはドラム状のダイヤルを親指で水平方向に回すタイプ。言い換えれば操作系に決定的な差はないといえる。

 

同じくマネッティーノをウェットにして走り始めると、電子制御式ダンパーは最もソフトな設定になっているにもかかわらず、F8 トリブートに比べて乗り心地は硬めに感じられた。それもダンパーというよりはバネが勝っている硬さだ。

 

結果として488GTBはロール量が小さく、鋭敏なステアリングレスポンスを獲得しているのだけれど、ドライバーが感じる印象としてはF8 トリブートと対照的なことが少なくなかった。

 

フェラーリ 488GTBのインテリア

F8 トリブートで進化が少なかったぶん、488のインパネデザインに古さは全く感じない。運転に関わる操作はほぼステアリングから手を離さずに可能だ。

 

「488GTBのほうが刺激的でドライビングしている実感が強い」

 

たとえば、荒れた路面でもボディがしっとりと落ち着いているF8 トリブートに対し、488GTBは絶えず細かく振動しているように感じる。このため、強い安心感を覚えるのはF8 トリブートで、488GTBでは「いつグリップが失われるかもしれない」という緊張感にさらされる。裏を返せば、それだけ488GTBのほうが刺激的でドライビングしている実感が強いともいえる。

 

足まわりがやや硬い488GTBはタイヤが凹凸に追随しきれないのか、瞬間的にグリップが失われる頻度がF8 トリブートよりも多かった。もっとも、タイヤのグリップが抜けるのはごくわずかな時間で、直後には回復するのでさほど心配する必要はないのだが、カウンターステアをあてる事態に備えて常に身構えているドライバーであればステアリングを終始小刻みに操作するドライビングを強いられるかもしれない。

 

フェラーリ 488GTBのエンジン

フェラーリ初のダウンサイズターボエンジンが採用された488GTB。670ps/760Nmと数字上はF8 トリブートにわずかに劣るが、そのパフォーマンスは圧巻だ。

 

「一定速度で切り込んでいるつもりが瞬間的に転舵速度が速くなる気がする」

 

ステアリングの感触もF8 トリブートとはいく分異なる。コーナーの進入でステアリングを切り始めた直後に、フロントタイヤの接地感が瞬間的に抜ける領域があるように感じられるのだ。実際にグリップが抜けているとは思わないが、ステアリングを切り込んでいくとすっと操舵力が軽くなり、一定速度で切り込んでいるつもりがその区間だけ転舵速度が速くなってしまう気がするのだ。だからといってなにかの弊害があるわけではない。ただ瞬間的にヒヤッとするだけだ。

 

スタビリティコントロールの利き方については前述のとおりで、488GTBでは横滑り防止機能よりも先にトラクションコントロールが作動してスピンモードを回避する。結果として車両の安定性が保たれることには変わりないが、エンジンパワーがシステムによって抑え込まれることの少ないF8 トリブートのほうがドライビングに深く没頭できて好ましいように思う。

 

フェラーリ F8 トリブートの走行シーン

ボディ剛性が高く重心高が低いスーパースポーツを操っている感はどちらも強い。「技術的にF8 トリブートのほうがより進化しているのは事実だが、488GTBにもフェラーリ・ミッドシップスポーツの魅力はぎっしり詰まっていた」と筆者は評価する。

 

「F8 トリブートが進化しているのは事実だが488GTBにも魅力は詰まっている」

 

ただし、ウェットのワインディングロードを488GTBで何度も走るうち、最初に感じた緊張感はだんだんほぐれていって、コーナリング自体に集中できるようになった。ボディが小刻みに揺れることもタイヤのグリップが瞬間的に失われることも変わりはないが、それらが実質的なパフォーマンスに影響することはまずないし、ましてスピンするなど危険な状況に陥ることもありえない。それよりもボディ剛性が高く、重心高が低いスーパースポーツカーを操っている満足感や高揚感のほうが圧倒的に強い。また、私は“緊張感”という表現を用いたが、これをいい意味での“刺激”と受け止めてむしろ好ましいと評価することもできる。つまり、技術的にF8 トリブートのほうがより進化しているのは事実だが、488GTBにもフェラーリ・ミッドシップスポーツの魅力はぎっしり詰まっていたのだ。

 

エンジン音はF8 トリブートのほうが滑らかなうえに高音成分が豊富でより魅力的。トップエンドで生み出すパワー感も最高出力で50ps上回るF8 トリブートに軍配が上がるが、いずれも直接比べて初めてわかる程度の違い。鋭敏なレスポンスを含め、どちらのエンジンも「さすがフェラーリ!」というほかない。

 

フェラーリ F8 トリブートと488GTBの走行シーン

生憎のウェット路面は両モデルの違いを浮き彫りにした一方、乗り心地や直進安定性はよく似ていると筆者は語る。どちらを選ぶかは安定感か刺激か、どちらを求めるかによるだろう。

 

「高速道路での乗り心地や直進性には違いを感じなかった」

 

試乗を終えた帰り道、2台のフェラーリを乗り換えながら高速道路を走った。不思議なことに、ここでは乗り心地や高速直進性になんの違いも感じなかった。ともに路面の不整を巧みに受け流し、ステアリングを軽く保持するだけで深紅のV8ミッドシップ・スポーツは一直線に突き進んでいったのである。

 

いや、このとき私はフェラーリが放つオーラに深く陶酔していたのかもしれない。暗闇に包まれたサービスエリアでドライバーズシートから降り立つと、冷たい夜風がすっと頬を撫でていった。

 

 

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

 

 

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ F8 トリブート

ボディサイズ:全長4611 全幅1979 全高1206mm
ホイールベース:2650mm
車両乾燥重量:1330kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3902cc
最高出力:530kW(720ps)/7000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/3250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR20
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:3246万3000円

 

フェラーリ 488GTB

ボディサイズ:全長4568 全幅1952 全高1213mm
ホイールベース:2650mm
車両乾燥重量:1370kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3902cc
最高出力:492kW(670ps)/8000rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR20
最高速度:330km/h
0-100km/h加速:3.0秒

 

 

※GENROQ 2020年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2020年 6月号 電子版

※雑誌版は販売終了