カイエン ターボ クーペに見る「ポルシェ ターボ」の洗練と変遷【Playback GENROQ 2020】

公開日 : 2021/06/23 17:55 最終更新日 : 2021/06/23 17:55

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ポルシェ カイエン ターボ クーペのリヤスタイル

Porsche Cayenne Turbo Coupe

ポルシェ カイエン ターボ クーペ

 

 

洗練の“ターボ”

 

SUVならではの迫力を残しつつ、唯一無二の流線型シルエットを実現したカイエン クーペ。そのラインナップに550ps/770Nmを発生する待望の「ターボ」が新たに加わった。通常のカイエンでは味わえない、洗練の美学を体現したターボ クーペの走りとは。

 

ポルシェ カイエン ターボ クーペのフロントスタイル

新たにポルシェのカイエンシリーズに加わったカイエン ターボ クーペ。トレンドのクーペスタイルのボディには4.0リッターV8ツインターボを搭載し、ポルシェ最強の称号「ターボ」を名乗る。

 

「ポルシェにおける“turbo”とは究極的に洗練された記号性に他ならない」

 

「ポルシェが車名にターボと付けたらタダモノではない」。7歳上の兄貴が自動車雑誌を読み漁っては弟の私にせっせと刷り込んできた言葉だ。この話を思い出す時、脳裏には小文字で斜体の「turbo」という表記が浮かんでいる。

 

1975年、ポルシェ初のターボ車となる911ターボが発売された。73年に登場したBMW 2002(通称マルニ)ターボに続き、市販車として2例目だった(正確にはシボレー コルベアのごく一部にも設定があったようだが)。ちなみに国産初のターボ車は79年のニッサン セドリックだ。

 

当時、911カレラのパワースペックが最高出力200ps、最大トルク26kgmだったのに対し、911ターボは排気量3.0リッターの時代には260ps/35kgm、3.3リッター時代には300ps/42kgmを誇った。当時ニッサン フェアレディZの170ps/23kgmあたりが国産車の最高峰だった時代にである。

 

ポルシェ カイエン ターボ クーペのエンジン

最高出力550ps/最大トルク770Nmをスペックシートに刻み、8速ATを介して4輪を駆動。0-100km/h加速3.9秒を実現する。

 

「そのスタイルは“911オールロードクワトロ”とでも呼びたくなる」

 

それから40年以上が経過した。当時、自動車用としては最新鋭のパワーサプリメントだったターボチャージャーは、今や効率(燃費)向上の手段として軽自動車を含む幅広い車種に用いられるようになった。ポルシェの現行ラインナップを見ても、車名にターボとつかないポルシェにもターボチャージャーは付いている。ポルシェが車名に用いるターボの意味合いも変わったのだろうか。

 

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出る数日前、すでにかなり人通りが少なくなっていた某日夕方の銀座。道路脇に置かれたカイエン ターボ クーペは美しかった。リヤウインドウの角度が寝ていることに加え、リヤコンビランプの形状が似ているため、911を想起させる。911オールロードクワトロとでも呼びたくなる。

 

乗り込んでドライビングポジションを合わせる。インテリアはいつものポルシェワールドだ。ただし、おなじみの5連メーターが表示するのは、昔ながらの速度や回転数に加え、センサーで検知した先行車両との車間距離及び認識した車線やGセンサー、それにオーディオ情報など、デジタライズドされた情報が多く、2020年のポルシェであることを物語っている。

 

ポルシェ カイエン ターボ クーペのインテリア

インテリアのデザインは正統派SUVであるカイエンを踏襲している。ステアリングに用いられるスウェードがスポーティな雰囲気を醸し出す。

 

「ポルシェは自分たちのファナティックが何を尊ぶかをよく理解し、裏切らない」

 

横浜方面へ向け走行開始。冒頭で述べた刷り込みもあって、ターボというからにはハイスピードで走行せずとも、荒々しいエンジンサウンドを轟かせ、胃袋を揺さぶるハードな乗り心地が待ち受けているはずだと覚悟していたのだが、あまりの快適さに拍子抜けした。

 

路面がよいとは言えない首都高都心環状線及び1号横羽線を、まるで滑るようにスムーズに進んでいくではないか。路面からの大小の入力を正確に、丁寧に吸収するしなやかな足まわりはメルセデス・ベンツ Sクラスを思わせる。

 

極太&低扁平タイヤが装着されているにもかかわらず、轍や路面補修などでステアリングを取られることもなく、高い直進性を維持してくれる。ステアリングホイールに軽く手を添えているだけで、快適に走行を続けることができた。

 

人々がポルシェに求める“らしさ”は随所にきちんと散りばめられている。例えばステアリングポストの剛性感の高さや、シート、ペダル、シフトレバー、ターンシグナルレバーといった可動パーツのすべてで感じられる工作精度の高さには毎度目を見張る。動くように設計されている方向には実にスムーズに動く一方で、それ以外の方向にはグラつくことさえない。ポルシェは自分たちのファナティックが何を尊ぶかをよく理解し、裏切らない。

 

ポルシェ カイエン ターボ クーペのシート

SUVと言えども、他のポルシェ製スポーツモデル同様にサポート性を考慮したハイバックシートが備わる。ヘッドレストには“turbo”のロゴが付されている。

 

「あまりに洗練された挙動に物足りなささえ抱いた」

 

そんな快適至極なカイエン ターボ クーペも、ひと度アクセルペダルを深く踏み込めば、それまでの洗練された振る舞いから一転し、V8ツインターボエンジンが雄叫びを上げ、と同時に背中を蹴飛ばされるような加速に見舞われる・・・という展開を想定していた。

 

けれども実際にアクセルペダルを深く踏み込んでみると、想定とは異なる展開が待っていた。雄叫びはなかった。速さはあって鋭い加速を味わうことになったが、背中を蹴飛ばされるような感覚ではなく、加速が始まったかと思うと次の瞬間にはすでに望む以上の速度に達しているような、ワープのような加速だった。

 

加速中、ステアリングをしっかり握っていないと左右どちらかへ飛んでいってしまいそうな不安定さはまったくなく、直進安定性はしっかり保たれていた。あまりに洗練された挙動に物足りなささえ抱いた。

 

ポルシェ カイエン ターボ クーペの走行シーン

もはや550psという数値は公道でフルに発揮できるものではない。「期待半分、恐れ半分のワクドキを想像しながら走らせるのが公道での正しいカイエン ターボ クーペの楽しみ方なのかもしれない」と筆者は語る。

 

「ポルシェにおける“ターボ”とは、ある意味象徴的な高性能に昇華した」

 

とはいえ味わった加速は一瞬に過ぎない。すぐにクルマが勢いを失うのではなく、あくまで加速を続けるだけの環境が公道になく、ドライバーがアクセルを緩めざるを得ないだけの話だ。あの加速をあと数秒間続けていたらいったいどこまでいったのだろうか? この期待半分、恐れ半分のワクドキを想像しながら走らせるのが公道での正しいカイエン ターボ クーペの楽しみ方なのかもしれない。

 

なんだかもったいないような気もするが、550psとはそういう領域ではないだろうか。もちろん事情が許すならクローズドコースへ持ち込んで、公道ではその一端すら覗くことができない領域のすべてを知るのも良いだろう。

 

40年を超える進化の歴史を経て、ポルシェにおけるターボはもはや何かを失って、あるいは我慢して得る特別な高性能ではなく、快適や洗練と同時に手に入る、ある意味象徴的な高性能に昇華したということなのかもしれない。

 

 

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)

 

 

【SPECIFICATIONS】

ポルシェ カイエン ターボ クーペ

ボディサイズ:全長4930 全幅1989 全高1653mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:2275kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550ps)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/1960-4500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
車両本体価格:2010万5556円

 

 

※GENROQ 2020年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

 

 

【関連リンク】

・GENROQ  2020年 6月号 電子版

※雑誌版は販売終了