東京外環の完成は不可能? 清水草一の「東京大動脈革命」出張掲載、第2弾

公開日 : 2021/06/27 17:55 最終更新日 : 2021/06/27 17:59

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TOKYO大動脈革命RETURNS

TOKYO大動脈革命RETURNS

「外環道(大泉JCT〜東名JCT)」 編

 

 

致命的な陥没事故が発生。東京外環はもうできない・・・

 

2017年2月号から1年間に渡って掲載した連載「TOKYO大動脈革命」。2020年に開催予定の東京オリンピックに向けて続々と開通する関東の大動脈を追った。だが、オリンピックの延期により当初の開通予定から狂いが生じた区間もあるはずだ。今回は2020年の完成を予定していた「外環道(大泉JCT〜東名JCT)」を追った。

 

清水隊長「まさか地下40m超の大深度に掘ったシールドトンネル工事で、地表が陥没するとは思ってもいなかった。5年前、福岡市の地下鉄工事で起きた陥没事故のトンネルは、深さ約22m。道路下だったので、民有地への被害は大きくなかった。今回は住宅地の真下で起きてしまった」※出展:NEXCO東日本ホームページ

 

清水隊長の外環道(大泉JCT〜東名JCT)ここに注目!

 

1.懸案事項だった用地買収は順調だが・・・
2.恐れていた事故が顕在化した
3.本区間の完成は絶望的か・・・

 

清水草一隊長

文体を自由自在に使い分ける変幻自在な自動車評論家。著者『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(講談社ビーシー)でも知られる通り、交通ジャーナリストとしても幅広く活動している。高速マニアの隊長だ。

 

GENROQ編集部・石川隊員

いつの間にかGENROQ編集部に4年半以上在籍している編集部員。2017年スタートの「TOKYO大動脈革命」連載を担当。今回の短期連載では工事が遅れた箇所の謎に迫りたいと意欲満々。

 

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石川隊員「陥没・空洞が発生した調布市・東つつじヶ丘の現場に来ました。NEXCO側は原状回復を約束していますが、対象全戸が納得するとは到底思えません。僕が当事者だったら、原状回復工事をNEXCO側が行ったとしても一抹の不安は拭えないです」

 

首都圏の道路ネットワークの要、全線地下トンネルの東京外環

 

東京外環こそ、TOKYO大動脈革命の主役。この完成をもって、半世紀立ち遅れていた首都圏の道路ネットワーク整備は、ついに欧米大都市に追いつき、むしろ追い越すほど充実する・・・はずだ。

 

ちょうど4年前、我々は東京外環の建設予定地を巡り、工事の進捗状況を見た。といっても東京外環は、全線地下トンネル。その大部分が、深さ40m超の大深度に建設される。

 

この、いわゆる「大深度」を潜るトンネル部は、大深度地下法により、土地所有者の権利が及ばない。ただしJCT近辺などのそれより浅い部分や、地上に出る部分は、用地や区分地上権(地下を通す権利)の取得が必要だ。

 

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石川隊員「東つつじヶ丘地区ではNEXCO東日本による24時間巡回や測量が毎日のように行われているようですね。工事関係者に話を聞いたら、東つつじヶ丘にある公園の地下で南行のシールドマシンが止まっているとのことでした。シールドマシンが稼働するのはいつになるやら・・・」

 

用地買収と事故が懸念材料だったが・・・

 

4年前の焦点は、用地買収の進捗状況だった。それが終了しないと道路は完成しないし、場所によってはトンネルを掘ることもできない。用地さえ取得できれば、あとは建設あるのみ。最大の難関は用地取得だと考えていた。

 

4年前の時点で、用地取得率は98%、残り37件だった(青梅街道インター部を除く)。公共性の高い高速道路建設の場合、土地所有者が売却を拒否しても、強制的に取得できる「収用」という法手続きがあるので、時間はかかっても、最終的にはなんとかなるのである。

 

4年前、東京外環の完成目標は、まだ「2020年東京オリンピック開幕まで」のまま。当時私は「間に合ったら奇跡」「順当に行って数年遅れ」と書いている。

 

昨年6月の段階では、未買収地は13件にまで減少。シールドトンネルの掘進も、東名JCT発進側が先行し、かなり進んでいた。

 

もうひとつの懸念は事故だった。これに関しては4年前、「外環道は3車線×2。その分シールドトンネルの径が大きく(16m)、工事は難しい。なんのトラブルもなく貫通したらこれまた奇跡」と記している。

 

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清水隊長「地質の悪条件が重なって、結果的に、のどかな住宅密集地の地下の地盤を緩ませてしまった。それがもたらす結末が、こんなにも恐ろしいものだとは! 「取り返しがつかない」とはこのことだ。残念ながら、シールドマシンが再発進することはないだろう」

 

まさかこんなことになるとは・・・もし開通したら奇跡だ!

 

その懸念が当たってしまった。しかも最悪の形で。

 

私が想定していた事故は、例えば予想外の出水とか、シールドマシンのトラブルなど。しかし実際に起きたのは、地上の陥没だった。その経緯を追ってみよう。

 

2020年10月18日 調布市東つつじが丘のシールドトンネル直上にて、地表面の陥没を確認(翌日埋土)。

 

11月3日 陥没箇所の40m北で空洞を発見(11月24日充填)。

 

11月21日 陥没箇所の南30mにて空洞を発見(12月3日充填)。

 

2021年1月14日 陥没箇所から北120mにて空洞を発見(1月22日充填)。

 

空洞はすでに埋めたものの、ボーリング調査等の結果、陥没個所の南北約150m(幅16m)のトンネル直上で、地盤の緩みが確認された。原因は、シールドマシンによる土砂の取り込み過ぎと推定されている。

 

TOKYO大動脈革命RETURNS

石川隊員「東名JCTは4年前に来たときと激変していて驚愕しました。以前建ってた民家が跡形もなく消えていて、工事は順調に進捗しているように見えました。う〜む」

 

前後150mに及ぶ区間に渡って発生した「地盤の緩み」

 

この付近は、関東ローム層(5〜10m)の下は厚い砂層で、地質が柔らかいため、シールドトンネル掘削の音や振動が地上に伝わりやすく、住民から苦情が出ていた。

 

そのため、毎晩夜間の掘削を停止。停止中にシールドマシン内に溜まった土砂が固まり、排出するために気泡液材を投入。その液剤が切羽から前方上部の地層に浸透、掘進を再開した際にシールドマシン内に余分に取り込まれ、地層の密度が低下。それが直上へと伝播した。

 

事故がトンネル内の被害なら、工期が遅れるだけで、問題は小さかった。しかし、地上に影響が出たとなると大ごとである。地上の住民にすれば、勝手に自分たちの土地の地下にトンネルを掘り、それで地盤が緩んだわけで、今後地盤沈下が起きたり、大地震で液状化する可能性もある。とにかく、いま問題になっているのは「空洞」ではない。前後150mに及ぶ区間の「地盤の緩み」だ。

 

住民側は、「元に戻してくれ」と要求し、事業者であるNEXCO東日本はそれを約束。原状を回復するまで工事を全面的にストップし、再開しないことになった。

 

TOKYO大動脈革命RETURNS

清水隊長「4年前、「この家々は本当に移転してくれるのかなぁ」と心配しながら見て回ったが、まさか努力が水の泡になるとは、誰も思っていなかっただろう。私も想像だにしていなかった。もう日本では、二度と大深度シールドトンネルは掘れないのではないか」

 

NEXCOは被害区域の約40軒に仮移転を依頼

 

焦点は、原状回復ができるのかどうかにある。

 

NEXCO側は、あらゆる損害(家賃減収や不動産価値の低下等。希望すれば土地家屋の買い取りも約束)を補償するとしているが、一度緩んだ地盤を完全に元に戻すのは困難だ。

 

原状回復工事のため、被害のあった区域の約40軒に対しては、仮移転を依頼している。引っ越してくれ、というわけだが、あくまでお願いで、強制力は一切ない。

 

移転してもらった上で本格的に調査し、工事を行う手順だが、どこまでやれば「原状回復」と言えるのか、あるいはどこまでやれば納得してもらえるかは住民次第。ひとりでも納得しない地権者がいれば、工事は永遠に停止したままになる。それ以前に、「仮移転なんて冗談じゃない。住んだまま、全部元に戻してくれ」と主張する住民がいて当然だ。

 

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石川隊員「中央自動車道と外環道を結ぶ中央JCTです。こちらも順調に工事が進んでいるようですね。隊長の予想が現実のものとなると、1兆6000億円を掛けた大工事が無駄になるということですよね(涙)」。清水隊長「なんとか関越と中央だけでも結べないか」といった声もあるが、工事は全面的にストップしている。大深度シールドトンネル工事の信頼性が崩壊した以上、部分開通の可能性も限りなく低いと言わざるを得ない。個人的には、あきらめの境地だ」

 

東京外環は工事再開不可能か? できたら奇跡だ

 

家屋を建てたままできる工事は、ボーリング口からの薬液(凝固剤)注入程度。それ以上は、家屋を取り壊し重機を入れての大工事となるが、それでも地下40mまで完全に元に戻すのは不可能に近い。

 

あくまで個人的な見解だが、東京外環はもう工事を再開できないのではないか。可能性はゼロではないが、できたら奇跡だ。

 

現場では、工事関係者が24時間巡回し、地表面の監視を続けている。その作業は今後何年続くのか。10年だろうか。あるいは20年か。希望は捨てたくないが、あまり期待を抱ける状況ではない。

 

NEXCO東日本によれば東つつじヶ丘地区の原状回復工事を2年で終了させ、再びシールドマシンを稼働させる計画だという。だが、わずか2年で対象区域の住民の同意を得て、工事を完了させるなど到底不可能としか思えない。

 

 

REPORT/清水草一(Soichi SHIMIZU)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
ILLUSTRATION/時川真一(Shinichi TOKIKAWA)

MAGAZINE/GENROQ 2021年 8月号