アストンマーティン ヴァンテージ F1エディション×ニッサン GT-R NISMO スペシャルエディション

日英が誇る最新スーパースポーツの意外な一面。ヴァンテージ F1エディションとGT-R NISMOをストリートで測る

アストンマーティン ヴァンテージ F1エディションとニッサン GT-R NISMO スペシャルエディションの走行シーン
共にブランドの顔として確固たる地位を築いたアストンマーティン ヴァンテージとニッサン GT-R。サーキットでのパフォーマンスを企図した日英が誇るスーパースポーツの特別モデルを公道で試す。
アストンマーティンがF1に復帰した記念に開発されたヴァンテージ F1エディション。対するはNISMOが培ったテクノロジーが注ぎ込まれた究極のニッサン GT-R。日英が誇る究極のスーパースポーツの個性を箱根のワインディングで探ってきた。

Aston Martin Vantage F1 Edition×Nissan GT-R NISMO Special Edition

共通点が多い2台のスーパースポーツ

今回連れ出した日英のスーパースポーツ2台には、意外なほど共通点が多い。まずは価格。アストンマーティン ヴァンテージ F1エディションの車両価格が2440万円、一方のニッサン GT-R 2022年モデルのNISMOのそれは2420万円。取材車はそのスペシャルエディションで、2464万円である(が、今年度分のGT-R NISMOはすでに完売とか)。

それだけではない。どちらもモータースポーツの血筋を強く匂わせる仕立てでありながら、これ自体はホモロゲモデル的な位置づけではない点も共通する。それぞれにリヤウイングに象徴される本格的なエアロダイナミクスが導入されており、潜在性能を存分に味わうにはサーキットに持ち込むしかないほど速い。しかし、ともにガチガチのサーキット限定スペシャルではなく、今回のような公道でも・・・というか、その味わいは公道でこそじっくり堪能できる部分が多いところも共通する。

AMG製パワーユニットは最高出力535psを発揮

ヴァンテージ F1エディションは2021年からのアストンF1参戦を記念したセーフティカーレプリカという意味合いを持たされたクルマである。アストン自身のF1参戦は61年ぶりだったが、現代F1との関わりは16年のレッドブルとのパートナー契約に始まった。現行ヴァンテージは、アストンがそうしてあらためてF1への興味を示し始めていた17年に発表された。

そのノーズに積まれたのは、ご承知のようにメルセデスAMG製の4.0リッターV8ツインターボだ。当時は「これでアストンも他社エンジンか」などと少しばかりセンチメンタルになったものだが、今やアストンのF1マシンもAMGパワーユニットを使う。ヴァンテージは一夜にして、これ以上ない由緒正しいパッケージとなったわけだ。偶然か必然か、あるいはすべてが用意周到に練られたストーリーだったのか・・・。

サーキット仕様というより“正常アップデート版”

いずれにしても、そんなヴァンテージのF1エディションはいかにも由緒正しい深緑のボディカラーとフードに新設された通気口、見るからに利きそうな前後空力部品が特徴である。基本メカはヴァンテージそのままだが、エンジンは出力を25ps高めた535psになったほか、ホイールサイズ拡大(20→21インチ)、ボディ剛性強化、ダンパーの減衰領域拡大、リヤスプリングのバネレートアップ・・・といった手が入っている。その狙いは「オンロード性能を損なうことなく、ラップタイムを大幅に短縮すること」だそうだが、タイヤの幅や銘柄(ピレリPゼロ)が変わっていないことからも、いわゆるラップタイムスペシャル的な内容とはかなり違っている。

実際に走らせるF1エディションも標準のヴァンテージより全体に引き締まっているが、ガチガチではない。かわりに、どのダンピングモードを選んでも上下動が明確に抑制されたフラットな身のこなしとなった。もともと優秀だったヴァンテージの操縦性は、より正確で無駄がなくなり、しかししなやかさはしっかり残されている。それはサーキット仕様というより“正常アップデート版”あるいは“最新熟成版”と捉えたほうが実態に近い。予算に余裕があり、リヤウイングを備えたビジュアルが嫌いでなければ、今現在ヴァンテージを買うなら、基本的にはF1エディションを選ぶべきと思う。

15年の歴史が熟成させたニッポンのスーパースポーツ

巷のウワサでは生産終了も近いというニッサン GT-R。そのNISMOとなれば、つまりは現行R35型GT-Rが歩んできた15年の歴史(スーパーカーとしては異例に長い)の幕を閉じる最終形態というべきか。そのスペシャルエディションとなる取材車は、クリア塗装のカーボンフードにレッドリム加飾ホイール、そしてエンジン内部のピストンリング、コンロッド、クランクシャフトなどに「高精度重量バランス部品」が使われるのが特徴だ。

GT-Rはまるで野武士のような風格

ヴァンテージも同時代のライバルと比較するとレーシーなダイレクト感が特徴だが、GT-Rは良くも悪くも、さらに粗野なダイレクト感があり、まるで野武士のようなクルマといっていい。変速機その他のあらゆる機械の鼓動(=振動)も手に取るように伝わってくる。

バランス部品を使って丹念に汲み上げられたGT-Rの3.8リッターV6ツインターボは、7000rpm超のリミット付近では金切り声となる。これに比べると、ヴァンテージの最新設計V8は上品ですらある。必要以上にヒステリックに吠えないのも、ハイブリッドパワーの最新F1に通じる・・・と勝手に納得したら、こじつけに過ぎるだろうか(笑)。

メーカーの威信をかけた硬派な2台は意外なほど快適でまろやかであった

NISMOはフットワークもはっきりと硬いが、最もハードなRモードにしても、しなやかさは残り、どこかまろやかな肌ざわりなのが最新GT-Rの特異なところだ。そういえば絞り出すようなエンジン音も、最後はすべての振動が収束したクリーミーともいえる響きとなる。

今回のヴァンテージもそうだ。サーキットを想定したトラックモードで低ミューな箱根のワインディングに挑んでも、けっして跳ねることはなく、その奥底にはまろめみを帯びたしなやかさが漂う。また、F1エディションもNISMOも、スピードが上がるほどにクルマの挙動がしっとりと落ち着きを増すのは、強大なダウンフォースを発生するエアロダイナミクスの恩恵だろう。

いかに硬派で体育会系のスーパーポーツカーでも、熟成がきわまるほど、実はまろやかな味わいを醸し出すようになる・・・。日英の最新進化形のスーパースポーツ2台は、そんなことを教えてくれている。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
GENROQ 2022年 5月号

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【SPECIFICATIONS】
アストンマーティン ヴァンテージ F1エディション
ボディサイズ:全長4490 全幅1942 全高1274mm
ホイールベース:2704mm
車両重量:1570kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:393kW(535ps)/6000rpm
最大トルク:685Nm(69.9kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前225/35ZR21 後295/30ZR21
車両本体価格(税込):2440万円

ニッサン GT-R NISMO スペシャルエディション
ボディサイズ:全長4690 全幅1895 全高1370mm
ホイールベース:2780mm
車両重量:1720kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:441kW(600ps)/6800rpm
最大トルク:652Nm(66.5kgm)/3600-5600rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前255/40ZRF20 後285/35ZRF20
車両本体価格(税込):2464万円

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281

日産自動車お客さま相談センター
TEL 0120-315-232

【関連リンク】
・アストンマーティン 公式サイト
https://www.astonmartin.com/ja

・日産自動車 公式サイト
https://www.nissan.co.jp

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