今週末はWRCラリージャパン!「フォード プーマ ラリー1」に注目

千載一遇のチャンスをモノにした「フォード プーマ ラリー1」その秘策とは?【ラリー名車列伝 SS5】

今週末に開催されるラリージャパンにも2台体制で登場する、最新ラリーカー「フォード・プーマ・ラリー1」。
今週末に開催されるラリージャパンにも2台体制で登場する、最新ラリーカー「フォード・プーマ・ラリー1」。
いよいよ今週末(2022年11月10~13日)、愛知県と岐阜県を舞台に世界ラリー選手権(WRC)最終戦ラリージャパンが開催される。日本におけるWRC実施は2010年以来、実に12年ぶり。今シーズンから導入されたハイブリッドパワートレインを搭載する「ラリー1」が、日本のターマックステージを疾走することになる。WRCの歴史において忘れることのできない名車を紹介する短期連載、第5回はラリージャパンにも出走する最新ラリー1規定マシン「フォード プーマ ラリー1」を紹介しよう。

Ford Puma Rally1

“独立系”ワークスチーム「Mスポーツ」

フォードのワークス活動を担っている独立系チーム「Mスポーツ」。1997年以来、一度も活動を休止することなく、WRCへの参戦を続けている。
フォードのワークス活動を担っている独立系チーム「Mスポーツ」。1997年以来、一度も活動を休止することなく、WRCへの参戦を続けている。Mスポーツが開発した最新ラリーカーが「プーマ ラリー1」だ。

現在、WRCにワークスチームとして参戦するのは、日本のトヨタ、韓国のヒョンデ、そして英国を拠点とするフォードの3メーカーとなる。ただ、フォードに関しては、欧州フォードがホモロゲーションなど、マニュファクチャラーとしてのサポートをしているものの、厳密に言うと「Mスポーツ(M-SPORT)」という英国の独立系チームが、ラリーカーの開発とチーム運営を行っている。

そもそも欧州フォードは、古くはコルチナ・ロータス、グループ4時代はエスコートRS1600や、エスコートRS1800で様々なラリーを制してきた歴史を持つ。その後も世界一美しいグループBと呼ばれるRS200、グループA時代はシエラRS コスワースやエスコートRSコスワース4×4と、それぞれの時代で確かな軌跡を刻んできた。

英国のボアハムにファクトリーを持ち、多くの栄光を手にしてきた名門フォードだったが、1990年代後半になると、資金不足に悩まされるようになる。1996年末、ついにボアハムは閉鎖され、1997年シーズンからフォードのワークスチームは、英国出身のラリードライバー、マルコム・ウィルソンによって設立されたMスポーツへと引き継がれることになった。

以来、多くのチームが参入と撤退を繰り返す中、Mスポーツ・フォードは、1997年から常にWRCワークス参戦を継続してきた、唯一のチームとなっている。

2022年から導入されたハイブリッドパワートレイン

2022年から導入された「ラリー1規定」には、WRCトップカテゴリー初となるハイブリッドパワートレインが採用された。グリーンに光るライトは、安全な状態であることを示している。レッドに点灯しているときは、危険なため近づくことが禁止されている。
2022年から導入された「ラリー1規定」には、WRCトップカテゴリー初となるハイブリッドパワートレインが採用された。グリーンに光るライトは、バッテリーが安全な状態であることを示している。レッドに点灯しているときは、危険なため近づくことが禁止されている。

Mスポーツがこれだけ長くWRCへの参戦を続けている理由は、ラリーカーの販売など、ビジネスとしてラリー活動を行っている側面はあるだろう。しかし、毎年のようにシーズン終了間際には参戦資金不足を囁かれ、撤退の危機を書き立てながらも、活動を続けてきたのは、ウィルソンのラリーに賭ける情熱の強さに他ならない。

WRCに新規定導入が決まった2022年シーズンを前に、ライバルよりも開発の遅れを指摘されながらも、ハイブリッドパワートレインを搭載した新型ラリーカー「プーマ・ラリー1」を完成。ベースモデルを、長く使われてきたBセグメントの「フィエスタ」から、SUVの「プーマ」に変更するというサプライズを持ってきた。

1997年以来、マイナーチェンジを繰り返しながらWRCのトップカテゴリーに君臨してきた「WRカー規定」は、勝利のための正解が出し尽くされていた。しかし、パイプフレームにハイブリッドパワートレインを組み込んだ、全く新しい「ラリー1規定」は、最適解が誰も分からない状態で、2022年シーズンを迎えることになった。

知将ウィルソンは、この開幕戦モンテカルロこそが、千載一遇のチャンスだと考えたはずだ。「ここなら勝てる」と。

戦力で上まわるライバルに対抗するために

ニューマシンの開発にリソースを割いてしまったため、トップドライバーを起用できなかったMスポーツ・フォード。ライバルに対抗するために、マルコム・ウィルソンは秘策を思いつく。
ニューマシンの開発にリソースを割いてしまったため、トップドライバーを起用できなかったMスポーツ・フォード。ライバルに対抗するために、マルコム・ウィルソンは秘策を思いつく。

ドライターマック(舗装路)、スノー、アイス、アイスバーンと、目まぐるしくコンディションが変化するモンテカルロは、純粋なスピードではなく、経験値がモノを言うラリーだ。

このモンテカルロに向けて、トヨタは2021年の王者セバスチャン・オジエを筆頭に、中堅のエルフィン・エバンス、期待の若手カッレ・ロバンペラと盤石の布陣。ヒョンデはティエリー・ヌービルとオィット・タナックという路面を選ばないダブルエース体制を敷く。

対するMスポーツは「ニューマシンの開発に予算を使い切った」と言わんばかりの状況にあった。エースは未だWRC勝利経験のないクレイグ・ブリーン。2台目と3台目は、若いガス・グリーンスミスとアドリアン・フルモーという、なんとも頼りないドライバーラインアップとなった。

しかし、マルコム・ウィルソンは秘策を持っていた。モンテカルロで7勝の経験を持つ、帝王セバスチャン・ローブの起用だ。通算79勝、9度のWRCドライバーズタイトル獲得を誇る、ラリー界のレジェンドである。ただ、齢48、最後にWRCで勝ったのは、2018年のカタルニアまで遡らなければならない。

秘策が決まりラリー1規定初勝利を記録

純粋なスピードよりも経験がモノを言うモンテカルロで、ローブが勝利。ラリー1規定マシンによる、初勝利をチームにもたらすことになった。
純粋なスピードよりも経験がモノを言うモンテカルロで、セバスチャン・ローブが勝利(自身80勝目)。ラリー1規定マシンによる、初勝利をチームにもたらすことになった。

ハイブリッドブーストという未知のデバイスが搭載されたラリー1マシンで走るモンテカルロ。前述のように安定した路面などあるわけもなく、純粋なスピードよりも、ニューマシンを壊さずフィニッシュまで持ち帰れる、引き出しの多さが鍵になった。マルコム・ウィルソンの読みは的中する。最終日、首位を走行していたトヨタのオジエがパンク、彼とトップを争っていたローブが見事勝利を掴んだのである。

結果的にシーズンが進むにつれ、トヨタやヒョンデが実力どおりの力を発揮し、Mスポーツ・フォードが勝利を刻めていない状況を考えると、あらためて、プーマ・ラリー1のデビュー戦にローブを起用したウィルソンの慧眼が光ると言うものだろう。

ラリージャパンには、Mスポーツ・フォードからは2台のプーマ・ラリー1がエントリーしている(ブリーンとグリーンスミス)。世界で最も難易度が高いと言われる日本の舗装路に向けて、ウィルソンはどんな秘策を用意しているのか・・・。今週末、初モノには滅法強いMスポーツが送り出す、パープルのラリーカーにぜひ注目して欲しい。

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