メルセデスの最新フラッグシップ電動SUV「EQS SUV」に試乗

「メルセデス・ベンツ EQS SUV」はメルセデスの掲げる未来が凝縮された最新大型電動SUV

今回試乗したEQS 450 4Matic SUVの総電力量は107.8kWh、航続距離593km(WLTCモード)を謳う。
今回試乗したEQS 450 4Matic SUVの総電力量は107.8kWh、航続距離593km(WLTCモード)を謳う。
メルセデスのフラッグシップ電動SUV「EQS SUV」がデビューを果たした。大人7人が快適に過ごすことができる居住空間に、圧倒的な質感の室内。ラグジュアリーBEVのあらたな可能性を感じさせてくれるモデルに仕上がっていた。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

Mercedes-Benz EQS 450 4Matic SUV

みなぎるメルセデスの決意

「2030年までに全販売車を電気自動車にする」という野心を掲げるメルセデスは本気だ。この渾身のBEVを見せられれば、そう納得せざるをえない。そこには「クルマの未来はこうなる!」というメルセデスの決意がみなぎっている。

欧州メーカーはどこもBEV積極派だが、具体的なモデル計画は未だ慎重な部分も多い。例えばBMWが昨年発売した新型7シリーズもBEVを主力に据えつつ、保険(?)としての内燃機関モデルも用意する。しかし、メルセデスは7が登場した同じ年、しかもSクラスもその前年に刷新されたばかりだというのに、それとは別のBEV専用フラッグシップセダン「EQS」を出した。そして、今度は息つく間もなく、それと共通プラットフォームを使ったフラッグシップSUVを世に問うた。

このメルセデスの新フラッグシップSUVの実車は、意外にスマートに見える。それもそのはずで、ボディサイズは「GLS」より100mm前後ずつ短くて低い。全幅はほぼ同等。対してセダンのEQSと同じ3210mmのホイールベースはGLSのそれより75mmも長く、前後オーバーハングは印象的なほど短い。

トヨタ・カローラクロスと同等の小回り性能

大型カラー液晶が3枚並ぶ、いかにも未来な全面ガラスのインパネはまさにEQSの象徴だが、今回試乗した「450 4マティック(以下、450)」ではそれはオプション扱い。従来の助手席モニターは助手席でヘッドフォンを装着しないと視聴できない仕組みだったが、最新OSでは助手席乗員を検知すると、自動的に視聴可能になるようになった(と同時に、ドライバーが助手席モニターを凝視すると映らなくなる安全機能も備わる)。

グローバルでは2列仕様もあるというEQS SUVだが、日本仕様は3列7人乗りのみ。さすがBEVだけに室内長は広大で、床もフラット。ただ、アシを投げ出したようなセダンライクな着座姿勢になるのはフロアが高いせいだ。その理由はいうまでもなく、床下に総電力量107.8kWhという巨大電池が敷き詰められるからで、今回の450では、満充電で593km(WLTCモード)という航続距離を謳う。

メディア試乗会での取材となった今回は、都心での短時間試乗に終わったが、都心でも……というか、都心だからこそ自慢の小回り性能は思わず笑ってしまうほどだ。同プラットフォーム自慢の後輪操舵角はEQSでは9度だったが、このSUVはEQEと同様の10度まで切れる。というわけで、その最小回転半径は5.1m。それをメルセデス・ベンツ日本はあえて分かりやすいように「トヨタ・カローラクロスと同等の小回り性能」と表現している。

走ってなにより印象的なのは静粛性だ。アクセルペダルに軽く足を乗せて這いずるだけだと、車内はほぼ無音。右足を深く踏み込むと、まるでブロワーのような人工音がキャビンを満たしながら、背中を蹴り飛ばす。それでもホイールスピンの兆候など微塵もなく、アンダーステアにおちいることもなく、加減速でもカーブでのボディは水平を保つ。その絶大な安定性はBEVならではの低重心の恩恵もあろうが、あらとあらゆるダイナミクス制御による“電子の走り”と表現するほかない。

BEVインフラの進化が必要だ

「GLS」より100mm前後ずつ短くて低いボディサイズのおかげで意外にスマートに見えるEQS SUV。

ただ、その車重は車検証表記で実に2900kg! いかに柔軟なモーターと電子制御をもっててしても、ブレーキングや切り返しで、その重さを痛感する瞬間もなくはない。前記の航続距離は日常のお使いには十分以上だが、フル乗車でのドライブ旅行など、SUVらしく使おうとすると途中充電は不可欠だろう。ただ、日本で普及している出力50‌kW急速充電器では30分でせいぜい全体の2割程度(残量10%の場合で30%まで)しか充電できないらしい。メルセデス・ベンツ日本による実地テストだと、最新の90‌kWなら30分で4割(10%→49%)、150kWなら6割(10→58%)の充電量が確保できるというが、いずれの高出力急速充電器も日本ではまだ数えるほどしかなく、複数台の同時充電では出力が絞られてしまう場合が多い。

つまり、EQS SUVを気兼ねなく、それらしく使うには日本のBEVインフラはもっと進化する必要があろう。そういう意味でも、EQS SUVは、未来の(色んなことを予見をさせてくれる)クルマだ。メルセデスが掲げる未来に、日本社会が追いつくのはいつのことだろう。

REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号

SPECIFICATIONS

メルセデス・ベンツ EQS 450 4マティックSUV

ボディサイズ:全長5130 全幅2035 全高1725mm
ホイールベース:3210mm
車両重量:2880kg
モーター最高出力:265kW(360PS)
モーター最大トルク:800Nm(81.6kgm)
駆動方式:AWD
EV航続距離(WLTC):593km
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後265/50R20
車両本体価格:1542万円

【問い合わせ】
メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

メルセデス・ベンツ日本は、7名乗車が可能な電動ラグジュアリーSUV、「EQS SUV」の日本導入をスタートした。

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